あらすじは至ってシンプル。深海の謎を調査する科学者チームが謎の生物に襲われ交信を絶った。5年前の苦い経験が元で隠遁生活を送っている元救命ダイバーのテイラー(J. ステイサム)は、救助任務を遂行できる唯一の適任者であることから半ば強制的に救命を依頼され、現実に引き戻される。過去の思い出を振り切るべくして潜った深海で待っていたのはメガロドンと呼ばれる巨大鮫だった。
ニュージーランドと中国で撮影された、中国向けのお化けザメ映画が、予想を覆す世界レベルで特にアメリカで大ヒットしたのはなぜか? そのシークレットに迫った。
アメリカ人はサメがお好き
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映画『ジョーズ』がきっかけだろうか。米国人はとにかくサメ好きである。ディスカバリー・チャンネルでは1988年7月より「シャーク・ウィーク」なるサメ三昧の週があり、1週間ぶっ続けで朝から晩までサメに関する番組が放映される。今年はうまい具合に『MEG』がPRで便乗して、シャーク・ウィーク中は本作のCMがひきりなしに流れていた。
恐竜時代の大昔から存在すると言われているサメは、様相からサイズ、獰猛さに至るまでまさに恐竜の生き残りといっても過言ではない。本作のタイトル『MEG』は、260万年前に存在したと言われる体長18mの巨大ザメで英語名:Megalodon(メガロドン)から来ている。また“メグ”は女の子の名前でもあることから、全然可愛くない巨大ザメを“メグ”と呼ぶのは皮肉で笑える。
配給会社の封切り週末(金・土・日)興行予想は当初2,000~2,500万ドルと分析されていた。しかしその分析は大きく外れる結果となる。ウイークエンドの初日とされる金曜日の興行のみで1,600万ドルを記録した『MEG』は最終的に週末3日間で興収4,540万ドルを叩き出す大ヒットとなった。
「郷に入っては郷に従え」作戦
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米国人はジョーク好きだ。アメリカでの『MEG』のPRキャンペーンもこのジョーク路線に則って攻めた。巨大な口を開けたモンスター鮫のポスターにはキャッチフレーズで、「Opening Wide」(「口を大きく開ける」と「大型封切り」という二重の意味を引っ掛けている)、或いは「Pleased Eat You」(「初めまして=Pleased to meet you」に引っ掛けている)など、見る側をニヤリとさせるジョーク・ポスターが街のあちこちで見られた。
アメリカで本作は「ホラー・コメディ」とジャンル付けされているが、中国では「ホラー・アクション」とカテゴリーされている。アメリカでのPR路線と大きく異なるアプローチだ。興味深いのは、当初は米国でも中国と同じシリアス路線でPRを進める予定だった。しかし配給会社の担当責任者が、公開前にはじき出された本作の興行収入分析が余りに低いのを見て奮起し、アメリカのお国柄を考慮して、ディスカバリー・チャンネルの「シャーク・ウィーク」の波に乗り、ソーシャル・メディアを駆使した笑いを取るPRを展開した。結果はご覧のとおりである。
怖い偶然!世界中で出没中の人食いザメ
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これは映画スタジオのマーケティングとは一切関係ない偶然なのだが、ここ十数年のあいだアメリカ東海岸、ハワイ、南アフリカなど、世界各地で人食いザメの出没が増加の傾向にあり懸念されている。海水温度の変化によるサメの食生活の変化、観光客増加に伴う釣り客の増加(釣りの餌はサメのご馳走であるため、人の周りにサメが増えて結果として事故も比例増加する)など様々な要因が挙げられているが、こういったニュースは人々のサメに対する恐怖と好奇心をかきたてる。『MEG』の大ヒットはこういった大衆の興味に上手く波長が合った結果とも言えるだろう。
さて、今年は『クレイジー・リッチ!』や、本作『MEG ザ・モンスター』など意外な大ヒットが目立つ夏となった。9月に入りいよいよ秋到来となるわけだが、これから徐々にスタートしていく映画賞戦線も楽しみだ。(text:Akemi K. Tosto)