ハリーが演じるのは、高地連隊(ハイランダー)の若き兵士アレックス。ドイツ軍からの容赦ない攻撃を受けつつ、戦地である海の町ダンケルクからの脱出を目指すアレックスは、その過程で同じイギリス軍の兵士トミー(フィオン・ホワイトヘッド)と出会い、行動を共にするようになる。もちろん、ダンケルクの浜辺を離れ、祖国への帰還を望む兵士はアレックスとトミーだけでなく、撤退作戦の対象となるのは英仏軍40万人。たとえ救助船に乗り込めたとしても、海中にはUボート、空には爆撃機が。緊迫感溢れる状況の中、アレックスは、トミーは、祖国に帰ることができるのか…?
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本編が始まってしばらく経った頃、アレックスとトミーは救助船に乗り込む幸運にありつけるが、彼らの死闘はここからが始まりと言っても過言ではない。爆撃や銃撃に右往左往させられることもあれば、深く暗い海に飲み込まれそうになることも。そんな中、ハリーの熱演に目を奪われずにはいられない。
起用理由を「映画俳優としての真実味があり、繊細で、何より圧倒的なカリスマ性があったから」と語るノーラン監督の言葉通り、ハリーは役柄を誠実に全うし、等身大のサバイバルを見せる。このサバイバルが綺麗事では済まされないのは必至で、生きるための力強さを発揮することもあれば、生き残るための選択に人間らしい残酷さをにじませることも。
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それでもアレックスを応援したくなるのは、ノーラン監督がハリーの中に見出した「カリスマ性」も手伝ってのことだろう。と言っても、その「カリスマ性」は彼が「ワン・ダイレクション」として、ソロ・アーティストとして見せてきた圧倒的スターのものではなく、あくまで一兵士のもの。例えるなら、まだプロのミュージシャンになる前、「ワン・ダイレクション」を輩出したオーディション番組「Xファクター」参加時に放っていた「カリスマ性」のレベルに近いかもしれないが、世界的スターとなったいま、物語の世界に役として溶け込み、役柄なりの存在感を放つのは演技力なくして成立しないこと。だからこそ、俳優ハリー・スタイルズの今後に期待したくなる。
つい先日、「俳優としての仕事は『ダンケルク』が最初で最後かもしれない」と発言したというハリーだが、本編を観た誰もが「そんなこと言わずに!」と叫びたくなるはず。ぜひ、映画館で俳優ハリー・スタイルズの誕生をいち早く目撃してほしい。
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