ヌーヴェルヴァーグの名匠ジャック・リヴェットが『美しき諍い女』に続き、バルザックの小説を映画化した文芸ドラマ。19世紀パリの華やかな社交界を舞台に、男と女の恋の駆け引きが描かれていく。艶やかな中にコケティッシュな魅力を放つジャンヌ・バリバールが演じるのは、恋愛の達人を気取る社交界の華、ランジェ公爵夫人。一方、右脚の切断を経て俳優復帰したギョーム・ドパルデューが彼女に激しい恋心を抱き、翻弄される軍人、モンリヴォー将軍に扮しているのだが、男女の駆け引きの名の下に、ふたりが思惑を交錯させる展開が緊張感満点。巧みな話術で自らの優位を保とうとするランジェ公爵夫人と、粗野に愛の炎を燃やすモンリヴォー将軍の感情の火花がスクリーンの中で散っている。これまでは繊細で無軌道なキャラクターが似合い、少なくとも荒々しい無骨さとは無縁だったギョームが一本気な軍人役で観る者を驚かせる。『恋ごころ』に続くリヴェット作品出演となるバリバールは、役にハマりすぎて怖いほど。そんなふたりが「恋愛とは何ぞや?」を突きつけ、その甘美な力から思わぬ落とし穴、普遍的な結末までを見せる本作は、これ以上ないほど贅沢な恋愛の手引書だ。