ひとりひとりが繋がれる劇場 『THEATRE for ALL』とは?
動画配信メディア群雄割拠時代において、ひと味違う趣のサービスを提供しているのが『THEATRE for ALL』。演劇・ダンス・映画・メディア芸術を対象に、日本語字幕、音声ガイド、手話通訳、多言語対応などのバリアフリー対応を施したオンライン型劇場を展開し、日本初のサービスを完成させた。
「だれでも、いつでも、どこからでも。ひとりひとりが繋がれる“劇場”」をテーマに掲げた『THEATRE for ALL』は、子どもから大人までという世代を超えるだけでなく、耳が不自由な人、目が不自由な人、使う言葉が異なる人、海の向こうで暮らしている人など、環境や身体の違いから劇場を訪れなかった人たちが、オンラインで劇場にアクセスできるようにという背景で立ち上がった。
より多彩な芸術にアクセスできるよう、様々なアクセシビリティに対してリサーチ活動を行う「THEATRE for ALL LAB」や、鑑賞者の鑑賞体験をより豊かにし、日常にインスピレーションを与えるラーニングプログラムの開発にも力を入れ、プログラムの充実を図っている。注目のサービスだ。
『十人十色の物語 ~今年90歳になる館長と9人のドラァグクイーン~』 もりたじり監督×ベビーヴァギーインタビュー
シネマカフェ編集部が選ぶ! 『THEATRE for ALL』でみられる 注目作品3選
別府市の劇場から誕生した一本のドキュメンタリー、 海外の映画祭も見据える“十人十色の物語”
ドレスやハイヒールを身にまとい、煌びやかなメイクで個性的なステージパフォーマンスを行なうドラァグクイーン。映画『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』やミュージカル「キンキーブーツ」などを通じて、その存在を知ったという人も多いかもしれない。
とはいえ、ひと言で“ドラァグクイーン”と言っても、抱えている思いや社会との関わり方などはひとりひとり異なる。映画『十人十色の物語~今年90歳になる館長と9人のドラァグクイーン~』は、大分県別府市にあるミニシアター別府ブルーバード劇場の90歳になる岡本照館長と劇場に集う9人のドラァグクイーンたちの交流を中心に、彼らの心情や思いを丁寧にすくい上げたドキュメンタリーである。
監督を務めたのは、ブルーバード劇場と岡本館長に魅せられ、映画ライターをしながら同劇場で働く森田真帆とそのパートナーである田尻大樹。最近では“アウト過ぎる映画ライター”としてぶっ飛んだ実体験をトークバラエティ「アウトデラックス」などで披露し、話題を呼んでいる森田が田尻と共に“もりたじり”という名義で制作した。
現在、本作は演劇・映画・ダンス・メディア芸術作品を日本語字幕、音声ガイド、手話通訳付きのバリアフリーおよび、多言語で楽しむことができるオンライン型の劇場「THEATRE for ALL」にて配信中。今回、森田、田尻両監督と、本作にも出演しているドラァグクイーンのベビーヴァギ―に話を聞いた。
”十人十色”の生き方に焦点を当て、ブルーバード劇場を撮ってみたかった
――この映画を作ろうと思ったきっかけについて教えてください。
森田 :以前から、ブルーバード劇場のドキュメンタリーを作りたいとおっしゃる方はたくさんいたんですけど、私はちょっと違う視点でブルーバード劇場のドキュメンタリーを作りたいと思っていたんです。ブルーバードの映画祭に来てくれるドラァグクイーンの方たちの生き方が本当に素敵で、いつも勇気をいただいていたので、ドラァグクイーンの方たちに焦点を当てつつ、照さんとの交流を描きつつ、彼らの人生――どういうふうに生きて、過ごしてきたかっていうのを撮って映像にしてみたいなと思いました。
田尻 :森田さんが年末、電話してきて「大樹くん、映画作るよ!」って。そこから(劇中で描かれる)映画祭まで2か月くらいで、その後、3週間くらいで納品というメチャクチャなスケジュールで…(苦笑)。
ただ、ドラァグクイーンのみなさんが本当に素敵なんです。それからもうひとつ、素敵なのが別府という街の環境で、ゲストのみなさんが何の打ち合わせもしてないのに口を揃えて「別府という環境が私たちを受け入れてくれる」って言うんです。僕自身、8年ほどサラリーマンをやって、流れ流れて行き着いたのがこの別府でまさに同じことを感じてます。よそ者に優しい、寛容な街なんです。このご時世、居場所がないと感じている人は多いと思うけど、そういう人に、照ちゃんとドラァグクイーンのみんなが交流する姿から何か伝えられるんじゃないかなと。
――ヴァギ―さんは、ドラァグクイーンとしていろんなステージに立ってきたと思いますが、その中でも映画でも描かれる「十人十色映画祭」のステージ、そしてブルーバード劇場にはどのような思いを抱いていますか?
ヴァギ― :私らのセクシャリティやジェンダーを扱う場合「LGBT」という言葉で表現されるけど、真帆は「LGBT」という言葉を一切使わず、「十人十色」で表現してて、それがこの人ならではの私らとの関わり方を表しているなと思うんです。「十人十色」の中に私らがいるし、そしてドラァグクイーンの中にもいろんな人がいて、そのひとりとして私もいるって意味合いが込められてるところに、、真帆の繊細な気の使い方が見えて、丁寧だなって。実際のイベントの進行とか酷いんだけどね(笑)。
照ちゃんもきっと私らのことを「LGBT」と思ってないんですよね。そういうカテゴライズに縛られないということが、照ちゃんを通して映画祭でも伝わってきて、ある意味“ゴチャ混ぜ”な感じが居心地が良いんです。
映画祭って、男女問わずいろんなタレントさんとかが来るけど、そこに私らみたいのまで混ざってて、“異種格闘技戦”に近いですよね(笑)。いろんなキャラが混ざってて、こんなの日本のどの映画祭、映画館のにもないと思います。型にハマったアプローチしない姿勢。それを別府の90歳を超えた館長がやってる小さな映画館から生まれるってなかなかすごいなと思うし、絡みづらいテーマだとと思うんですけど、それでも一緒に考えようって姿勢が嬉しいんです。
何よりも照ちゃんの人柄――ニコって笑って手を広げて受け入れてくれる、あれが全てなのかも。言葉で真面目なことをあれこれ言うのは簡単だけど、照ちゃんは常にあそこにいて、ニコニコしながら「元気してた?」って聞いてくれる。それが全てだなって思います。
本編にショータイムのシーンを入れなかった理由
――撮影や映画祭の開催を通じて、印象深いエピソードがあれば教えてください。
田尻 :ショータイムで、北海道から来てくれたパルプさんが、衣装の中にたくさん、切り抜いた照ちゃんの写真を隠してて、最後にバーッと広げるというのをやってくれて、爆笑シーンだったんですけど…。
ヴァギ― :メチャクチャ覚えてる(笑)。
田尻 :でも僕だけ、その瞬間に爆泣きしてまして…(笑)。みんなが照ちゃんのためにブルーバードに集まってくれて…とか考えてたら、感情が爆発してしまったんです。
ヴァギ― :最高におもしろいシーンなんですよ。ドラァグクイーンのショーって型にハマってなくて、自分自身で考えて3~4分で自分を表現するんですけど、パルプさんの愛と手間が伝わってきて、すごく素敵だな…って私も泣きたかったけど、横を見たら大樹が泣き過ぎてて(苦笑)。
森田 :ショータイムのシーンは映画の中にもっと入れたかったけど、でもあれは実際に目の前で見てこそ感じられる、貴重なものなので、映画で興味を持ってくださった方が、実際に新宿二丁目だったり、大阪だったり、足を運んで生で観てくれたらいいなと思って、あえて少ししか入れなかったんです。ぜひ生で見て、ドラァグクイーンのみなさんがどれだけ素敵なカルチャーを育んできたのかを感じてほしいです。
――森田さんは、撮影を通じて印象的だったエピソードなどはありますか?
森田 :今回、英語の吹替版と英語字幕版も作ってるんですけど、吹き替えを発注するためにオーディションをしたんです。でも、みなさん、普通に英語を話してしまうので、ドラァグクイーンの方たちの独特の話し方で表現してもらうのが難しくて…。どうしようかと思っていた時、大分の立命館アジア太平洋大学に通っているゲイのカップルが協力してくれて、全員分の吹替をやってくれたんです。彼は日本語ができるし、ちょっとフェミニンな感じの独特の英語を話すんですけど「この人は私と同じような感じで話してるから、私みたいな英語にしてみる」とか「彼はあんまりフェミニンな感じではないから、こういう感じかな?」という感じで繊細に10人の声色を使い分けてくれて。
字幕についても一度、プロの方にお願いして付けていたんですが「ここが大事なのにこの言い方はちょっと違う!」とかセンシティブな部分を彼らが修正してくれました。
「何でそこまでしてくれるの?」と聞いたら、彼らも別府で暮らしていて、LGBTへの理解を求めていて「この映画を通じて世界に日本のドラァグクイーンの人生が伝わるのなら、いくらでも協力するよ」って。本当に感謝しかないし、忘れられない思い出です。
映画の中に“ドラァグクイーン”の姿とは異なる素顔が映っていた
――映画の中で、ドラァグクイーンのみなさんがひとりひとり、子どもの頃の話やカミングアウトするか否かといったセンシティブな内容について、赤裸々に語っているのも印象的でした。
森田 :インタビューでみんながどういうふうに答えてくれるのか? 全然想像ができなくて、質問案もあまり考えず、いつも会話してるような感じで話を聞いたんです。でも想像を超えて、みんなが素で喋ってくれたんですよね。取り繕うでもなく、外向けにふざけるのでもなく、真剣に人生や自分の思いを素のまま話してくれたのは、すごく印象的でした。
ヴァギ― :裏でドラァグクイーンのみんなで話してたことがあって「真帆のインタビューが実はしんどかった…」って。真帆って私らとは前から友達だし、このインタビューもおちゃらけた感じになるのかな? と思いきや、いざ始まったらすごく真面目なことを言ってきて…。
メイクアップしている自分たちをどう表現するかってすごく難しくて、(本作にも出演しているドラァグクイーンの)ブルボンヌさんは、メイクを「武装」という言葉で表現してるんですけど、僕も社会に向き合う手段のひとつだと思ってて、メイクした自分は“違う自分”であることは間違いないんです。メイクすることで、おちゃらけた明るくて楽しい自分を見せないといけない――そんな気持ちで臨もうとしてたら、奥底に隠してるパンドラの箱を開けようとしてくるんです。真帆の人柄、表情に私らも引きこまれて、いつのまにか話しちゃってて「これ、メイクしてこの衣装でしゃべる内容じゃないのにな…(苦笑)」と喋りながら気づいちゃって…。
映画の中で、ドラァグクイーンたちの顔を見ていると、“ドラァグクイーン”だけでなく、“幼少期”だったり、本当は出したくない顔、いままで僕らも知らなかった顔も映っていて、それがメチャクチャ印象的でした。
――ヴァギ―さんの高校時代の“告白”の話や家族へのカミングアウトのくだりも非常に印象的でした。
ヴァギ― :ああいう話って、普段はおちゃらけた会話の中で話すものなんですよ(苦笑)。つい最近も、ドラァグクイーンの友だちとご飯食べながら「あんた、どんな男とヤッたのよ?」「最近、どうなん?」なんてくだらない話をしつつ、急にその子がポツリと「私、(家族の中で)お姉ちゃんにだけは(カミングアウトを)しようかな…」って言い出して、それこそ映画の中のインタビューみたいに「失う覚悟はあるの?」みたいな話になって…。
ただ自分が何を「好き」かということを表現するだけで、私たちは家族を失うかもしれないわけで、周りの人が「パスタが好き」とか言うのとはレベルが違う――「その覚悟を持たないといけないのよ」なんて会話を30歳を過ぎて、ご飯食べながらしている自分たちに「あぁ、やっぱり私たち、まだ何かを背負って生きてるんだなぁ」って思ったの。
その子が家族の中で姉にだけは伝えようかって考えたのは、コロナ禍があったり、30を過ぎて周りで病気をする友達なんかも増えてきて、もしいざ自分に何か起きたとき、身辺整理で同性愛関連のものが見つかってしまう。だから、家族の中でもしかしたら理解があるかもしれない「お姉ちゃんだけには言おうかな」って。
ただもうひとつ、その子に言ったのは「カミングアウトをするなら、ちゃんと自分を守る盾と武器を持たないとダメ」ということ。もし、理解してもらえなかったり、家族を失っても、私たちがいる、支えてくれる人がいるからねと。
そういう話まで、映画では真帆さんが思い切りほじくってきて(笑)、ピックアップしてくれてて、それはすごく嬉しかったですね。
「THEATRE for ALL」だから、多角的に楽しむ機会を作れた
――「THEATRE for ALL」というプラットフォームを介して、映画を作ってみていかがでしたか? 「THEATRE for ALL」ならではの魅力や可能性などについて教えてください。
森田 :バリアフリー上映など、多角的に映画を楽しめるって素晴らしい部分だなと思います。実際に耳が不自由な方に向けた日本語字幕版を作りながら、私自身もすごくいろんな発見があって、「こういう部分が足りないので必要です」ということを「THEATRE for ALL」さんがフィードバックしてくれたので勉強になりました。
もうひとつ、映画本編に加えて、ブルボンヌさんに協力していただいて、LGBTや性的マイノリティに関しての解説動画が作られていて、それを見ることで、映画本編では語り切れなかった“知識”についても理解していただけるようになっているんです。こういうアカデミックな部分に関しては、私たちだけでは絶対にフォローしきれなかった部分で、それを作らせてもらえたのは「THEATRE for ALL」さんのおかげです。単に映画を作るだけでなく、解説をキチンと入れられたのは、すごく意味のあることだったなと感じています。
いろんな形でワークショップなどをやってくださるのも素晴らしいと思います。最近、ヴァギちゃんが、ドラァグクイーンのメイクをいろんな人に施すという取り組みをやってるんですよ。ぜひ今後、「THEATRE for ALL」さんと連携して、映画を鑑賞した後に、お客さんに実際にメイクをしてもらうというイベントなんかもできたら面白いんじゃないかなと思っています。
今回、初めて映画を作らせていただいて、まだまだ未熟で、もっと編集し直したいなという部分もあるので、この映画を元にもう一度、編集して「劇場版」を制作して、海外の映画祭とかに出せたらいいなと思っています。ドラァグクイーンのみんなと一緒に海外の映画祭に行きたいですね。
田尻 :レッドカーペットをみんなで歩きたいです(笑)。
PROFILE
もりたじり
19歳で渡米、映画やドラマの現場にインターンとして参加し、帰国後は映画ライターとして活躍する森田真帆とパートナーの田尻大樹の2人による共同監督名義。昨年コロナ禍の緊急事態宣言で別府ブルーバード劇場が休館になった際、「なにかできることはないか」、と2人で短編映画作りに挑戦したときに生まれた。森田はライター業のかたわら劇場を支え、田尻は劇場を手伝いながら、自身は竹工芸の職人になるべく学校に通っている。
ベビーヴァギー
MC兼タレントとして、TVやラジオなど関西中心に活躍中のドラァグクイーン。
NHKバリバラ準レギュラー。番組内キャラクターいろいろさんの声担当。
〈過去出演番組〉
相席食堂、そこまで言って委員会、明石家電子台、有吉のダレトク、のぶなが、桃色つるべ、スクール革命、バリバラ、なみのりジェニーなど
シネマカフェ編集部が選ぶ! 『THEATRE for ALL』でみられる注目作品3選
多種多様なラインナップの中でも、シネマカフェ編集部が特に注目したい作品をピックアップ。1本目はシネマカフェでも人気の高い宮沢氷魚さん&大鶴佐助さん主演のふたり舞台「ボクの穴、彼の穴。The Enemy」。2本目は別府にある劇場の館長とドラァグクイーンの姿を追うドキュメンタリー「十人十色の物語~今年90歳になる館長と9人のドラァグクイーン~」。3本目はSNSの炎上という身近な問題がテーマの朗読劇「#ある朝殺人犯になっていた」。お気に入りが見つかるはず。
1 「ボクの穴、彼の穴。The Enemy」
「ボクの穴、彼の穴。The Enemy」は俳優・宮沢氷魚と大鶴佐助によるふたり舞台。戦場の塹壕に取り残され、見えない敵への恐怖と疑心暗鬼にさいなまれる、敵対する兵士の物語。「戦争のしおり」が正しさと信義のすべてと思い込み、互いをモンスターだと信じ、殺すか、殺されるか、じっと塹壕に身を潜める兵士の内面がリアルに活写される。
原作は、松尾スズキが初めて翻訳を務めた絵本「ボクの穴、彼の穴」。「戦争」というテーマのもと、塹壕の中で見えない敵と闘う男を描いた物語は、世界中がウィルスという見えない敵と闘う今こそ突き刺さる。
長台詞をものともせず感情を乗せてしゃべり、シリアスな中にも笑いをひそませる、巧みな宮沢さん&大鶴さんの演技が何よりも見どころ。
photo:Akihito Abe
SNSでは、「見えない敵に自分の正当性を訴え、思い込みや洗脳、紙上の情報に踊らされる。何気にコミカルな場面の裏の恐ろしさ。戦争の不条理。今のコロナ禍にも通じていて身につまされる」や「この状況は何処にでも起こりうると思う。信じるとはどういう事なのか、疑問を持つことの意味は何か」と、いまを生きる私たちにも通じる問題という声が上がった。
ふたり芝居の演技にも賞賛が集まり、「二人劇で、原作が絵本らしく優しくコミカルに表現。お互いが寂しげに歌うシーンがとても良かったです!」、「命の危機や孤独との闘いをたった二人で醸し出す臨場感!久し振りに舞台演劇を楽しみました」と、舞台の面白さも同時に実感したコメントも多く見られた。
2.「十人十色の物語~今年90歳になる館長と9人のドラァグクイーン~」
大分県別府市にある1949年開館の「別府ブルーバード劇場」が開催する「Beppuブルーバード映画祭」。本映画祭に参加するため、日本各地より集まったドラァグクイーン9人と、彼女たちを笑顔で迎え入れる岡村照館長の交流を追ったドキュメンタリー。
華やかな衣裳と派手なメイクで武装するドラァグクイーン9人。日々を笑顔で生きている彼女たちだが、それぞれの過去やいまの自分にたどり着くまでの道のりは決して平たんではない。自分らしく輝くために、居場所を見つけて生きる彼女たちの姿は力強く、美しい。
そんな9人を分け隔てなく接し笑顔で包み込むのが、館長の岡村さん。2021年に卒寿を迎えた岡村さんの「ありのままを愛する」生き方が胸に染みる。
オンライン試写にて鑑賞した人々からは、「映画鑑賞に留まらずそれに一歩踏み込んで交流イベントを開催する90歳館長の試みに驚く。カミングアウトが必要ない社会へと意識を変えなければならない」、「縁のある別府ブルーバード劇場で館長の岡村照さん(卒寿!)とおしゃべりに興じる空気感がやさしくて染みる」と、別府ブルーバード劇場の取り組み自体への興味や賛同の気持ちがレビューから滲み出た。
ドキュメンタリーの内容にも、「盛り沢山のインタビューで、人となりが伺える素敵なドキュメンタリーでした」「過剰に着飾ることが信条のドラァグクイーンが、カメラの前で飾ることなく自らを語る。一人ずつ丁寧に言葉を選んで話し方もいい」と寄り添う声が多く上がっていた。
3.朗読劇「#ある朝殺人犯になっていた」
藤井清美の同名原作を戯曲化した「#ある朝殺人犯になっていた」は、SNSの炎上の元となってしまった主人公が、ネットの“見えない声”に翻弄されるさまをミステリアスに描いた1本。ステージングと生演奏、映像を使用した新感覚の朗読劇となっており、臨場感に手に汗握る。
ある朝、目覚めてみると、自分が女児ひき逃げ犯だという噂がSNS上に広がっていた売れない芸人・浮気。否定すればするほど、過去が暴かれ、プライバシーがさらされ、普通の生活を送れなくなってしまった浮気を、須賀健太が熱演する。
朗読劇になじみのない人でも、身近なテーマとテンポのよいストーリー展開、真犯人の正体に、思わずのめり込んでしまうこと、うけあいだ。
撮影:宮川舞子
オンライン試写で鑑賞した中には「初めての朗読劇でしたがどんどんストーリーに引き込まれていき、新感覚を覚えました」と朗読劇という形態に魅せられたという声が多く、「朗読劇は何度か観に行ったことがあるけど、作品によって演出が様々で面白い。この作品は映像を上手く使っていて、分かり易かった」と、本作ならではのポイントもポストされていた。
「SNSって凄く身近にあって手軽なものだけど、思いがけず炎上したり、誰かを傷付けてしまったりがあるから使い方に気をつけないとなって改めて感じた」「リアルタイムで事態を見守るような感覚でハラハラした」と、改めてSNSの炎上を通して言葉について考えさせられたという意見も出ていた。
「ボクの穴、彼の穴。The Enemy」
・配信予定日:2021年12月24日〜1月7日
・作品時間:86分
・視聴料:3000円(視聴期間は240時間 / 10日間)
・情報保障:バリアフリー日本語字幕、音声ガイド(ノゾエ征爾(演出家)監修)
ストーリー
戦場に掘られた“2つの穴”。それぞれの塹壕に取り残され、見えない敵への恐怖と疑心暗鬼にさいなまれる2人の兵士の物語。
殺すか、殺されるか、じっと穴に身を潜め、互いを「モンスター」だと信じ、「殺す」ことだけにコミットしている。「戦争のしおり」が自分の正しさと信義のすべて。
お互いに「戦争のしおり」という大きな力に操られ、どんどん相手が大きなモンスターになり、疑心暗鬼と見えない敵への妄想が膨らんでいく。最後に彼らがとった選択とは…。
スタッフ / キャスト
「十人十色の物語~今年90歳になる館長と9人のドラァグクイーン~」
THEATRE for ALLにて配信中
・作品時間:87分
・視聴料:定額見放題対象作品/ 1000円(視聴期間は 240時間 / 10日間)
・情報保障:バリアフリー日本語字幕、バリアフリー英語字幕、英語字幕+英語音声
ストーリー
大分県別府市の駅前に位置する「別府ブルーバード劇場」は1949年開館の老舗映画館。ここを拠点に毎年開催する映画祭には各地からドラァグクイーンたちが応援にかけつける。華やかな衣裳ときらびやかなメイクに彩られた彼女たちを笑顔でうけいれる岡村照館長。2021年に卒寿(90歳)を迎えた館長が運営する劇場を、ドラァグクイーンたちは口をそろえ「居心地のいい場所」という、その理由とは?ドラァグクイーンたちに向けられたカメラはいつしか、生きにくさも生きがいも十人十色な彼女たちの内面を映し出していく。
スタッフ / キャスト
朗読劇「#ある朝殺人犯になっていた」
THEATRE for ALLにて配信中
・作品時間:110分
・視聴料:定額見放題対象作品/ 1500円(視聴期間は120時間 / 5日間)
・情報保障:音声ガイド、日本語字幕、手話パフォーマンス
ストーリー
ある朝、目覚めてみると、自分がひき逃げ犯だという噂がSNS上に広がっていた!ネットの炎上を赤裸々に暴き出す迫真のジェットコースター・エクスペリエンス!
スタッフ / キャスト
『十人十色の物語 ~今年90歳になる館長と9人のドラァグクイーン~』 もりたじり監督×ベビーヴァギーインタビュー
シネマカフェ編集部が選ぶ! 『THEATRE for ALL』でみられる 注目作品3選