「映画、芸術、メディアを通して女性を勇気づける」をスローガンに掲げる非営利映画製作会社「We Do It Together(WDIT)」が企画制作したアンソロジー映画『私たちの声』。多様化が叫ばれながらも、今もジェンダーギャップに苦しみ、社会の中で孤立してしまいがちな女性たちを支え、応援するストーリーが、世界各国の女性監督、女性俳優たちによって7つの短編映画として集結した。
日本からは「国際映画祭で評価されている女性監督」「主演は日本で5本の指に入る女優」として、呉美保監督と杏の二人に白羽の矢が。日本版ストーリー『私の一週間』では、2人の子供を抱え、育児に家事に、お弁当屋の経営にと超多忙なシングルマザーの一週間が淡々と描かれている。
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そこにこそ、日本の女性たちが抱える大きな問題があり、なかなか社会に届かない「声」があると考え、リアリティ溢れるごく普通の日常を通して丁寧に現代をあぶり出した呉監督と主演の杏さん。日本代表として本作を世界に届けた二人に、本作の魅力について聞いた。
淡々と描かれているからこそドラマチック
――監督、今回「私たちの声」に参加されようと思った理由を教えてください。
呉監督:最初にお話をいただいた当時、下の子が0歳だったんです。そんなときに映画なんて作れるのかなと思いました。でも、ジェンダーギャップというテーマを聞いた時に、「今、映画なんて撮れるのか」と思っていること自体が、まさにジェンダーギャップなんだと気づいて。上の子は5歳(現在8歳)で、つまり5年間も長編映画を撮っていなかったんです。今頑張って作らなくて、私はいつ頑張るんだと思いましたね。
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――杏さんへ。一週間の日々が繰り返される中で、頑張りつつも、日を追うごとに徐々に疲弊して行く母親の様子が、強く心に訴えてきました。
杏:あれは、子を育てる者が毎日行っている作業であり、どれだけ疲れていてもどれだけ調子が悪くても、仕事が忙しくても必ずやらなければいけない最低限の行為。もっと手厚くやっている方もいっぱいいると思います。そんな様子を淡々と作業として映像で積み上げていくと、現実を描けるのかなと思いました。
――確かに力強いリアリティがありました。杏さん演じるシングルマザーと子供たちの日々が積み上げられていくなかで、助けがない親たちが直面している苦労、言葉にならない戦いのようなものが凄く感じられました。
杏:今回、問題提起とか、「大変なんだよね」「どうにかしてよ」とか、そういうことは強調しないようにしようと、最初に監督と話をしました。それを言ってもねっていうところもあるし、淡々と描かれているからこそ私はこの作品をドラマチックに感じました。ですから、この物語の受け取り方はきっと見た人それぞれ、引っ掛かるところが違うのではないかとも思います。そういう余白がある作品。短編の中で1週間を描ききったということも本当に素晴らしいと感じます。
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――監督も、杏さんも、母親ですが、主人公にはどんな言葉をかけてあげたいですか。
杏:お疲れ、ですね。頑張れは言えないですし、休んでと言ってもしょうがない。休むのも難しいですしね。
呉監督:本当にそう、お疲れ、ですね。ほんのささやかな言葉をもらうだけでいい。子供に「ママいつもありがとうね」とたまに言われるんです。別にそんなに深く考えて言っていないと思いますが、それだけでも報われる感じありますね」