文化庁の事業である映像産業振興機構(VIPO)が企画・実施する「ndjc:若手映画作家育成プロジェクト2022」で製作された短編映画4作品が、2月17日(金)より劇場公開。舞台挨拶に登壇した岡本昌也監督、成瀬都香監督、藤本楓監督、牧大我監督の4人は、無事に劇場公開を迎えられたことを喜び、それぞれ感無量の様子だった。
今年度製作実地研修で完成した短編映画4作品は、初監督作『光の輪郭と踊るダンス』がゆうばり国際ファンタスティック映画祭2021「ゆうばりホープ」に選定されるなど、演劇・映画ともに今後の活躍が期待されている岡本昌也監督作『うつぶせのまま踊りたい』。
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岡本昌也監督は、「こんなに沢山の方に観ていただけると思わなかったので感無量です。ぜひ明日以降もリピートしに来てください」と場内を埋め尽くした観客の多さに驚きつつも嬉しそうな表情。
「今、28歳なんですけど、社会性を獲得していくにつれ、だんだんと子供の頃の衝動や怒り、社会に対しての不満みたいなものが消えていっていることに気付いて、そういったものを無かったことにしたくないなとおもって、自分の中の子供みたいなところを描きたくてこの脚本を書きました」と、先の読めない独創的な脚本が出来上がった理由を分析した。
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さらに「その曖昧な人生の夕焼けみたいな時期を、詩という曖昧なものを表現する媒体で描けるのではないかと思った」と、詩を題材にした話となった理由を語った。
2本目は、短編『泥』がソウル国際プライド映画祭、TAMA NEW WAVE、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭などに入選するほか、アマチュアでプロレスにて後楽園ホールのリングに立ったこともある成瀬都香監督作『ラ・マヒ』。
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「プロレスが題材の作品を撮ったのですが、プロレスを観たことのない人や、いろいろな職種の人にも観てもらって、明日もちょっと頑張ろうと思ってもらえる作品を目指してきたので、劇場公開が迎えられて本当に嬉しいです」と目を輝かせる成瀬監督。
「私は2年前からプロレスが大好きで、“どんなにやられてもやり返す”という姿がプロレスの醍醐味なのですが、それを初めて見た時に、こんな人たちが世の中にいるのかと衝撃を受けて、帰りの電車でぼろぼろに泣きながら帰りました。この熱量と人間の凄みみたいなものをいつか描きたい」と本作を撮った経緯を明かした。
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現場での演出については「役者が演じる役の生活を連想しやすいよう状況の説明をきちんとするように気を付けた」と言い、「特に今回は、主人公が試合の前に髪を染めたのが、試合の1か月前だと誤って役者に伝えてしまい、その後、試合の3日前に染めたんだと訂正して伝えたら、俳優さんのお芝居が全然変わって、状況をちゃんと伝えるのは大事だなと実感しました」と、改めて演出について学んだという。
3作目は、多摩美術大学で舞台衣装や特殊小道具のデザイン・製作を学び、卒業後東京藝術大学大学院に進学、桝井省志氏、市山尚三氏に師事し映画製作について学んできた藤本楓監督作『サボテンと海底』。
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「私は普段は美術スタッフをしていて、美術スタッフとして入った現場で初めてスタンドインの仕事を見かけて、面白いなとおもってこの作品を作りました」と、スタンドインを生業にしている役者が主人公の作品を撮った理由を説明。
「ラストシーンはずっと悩んでいたのですが、最終的にndjcに一番最初に送った初稿のラストシーンになりました」と印象的なラストシーンについても明かした。
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演出方法について質問されると「例え話はよくしました。例えば、何メートル走ってきたテンションとか、脚本をもらったときは恋をするように、恋人からのメールみたいにウキウキしてくださいとか、そういった例え話をけっこう使いました」と話す。
主人公がオーデイションで自由に演技するシーンについてどんな演出をしたのか聞かれると「あのシーンは、脚本上には『恐竜に襲われる人』とか『なんちゃってで能をする』とか抽象的なト書きを何行か書いていて、あとは主演の宮田(佳典)さんにお任せでアドリブで演じてもらいました」と撮影の裏話を明かし、ほかの監督からはその演出方法に驚きの声が漏れていた。
4作目は、慶應大学4年時に親友たちと映画制作を始め、写真家、作曲家、アニメーターと共に幡ヶ谷の古民家「凡蔵」を制作拠点にし、短編『ダボ』がSSFF&ASIA 2022に入選した牧大我監督作『デブリーズ』。
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「自主映画を制作していた時は5千円くらいの予算で作品を作っていたのですが、今回、自主映画とは比べ物にならないくらいのお金を使って作品を作れるということなので、せっかくならこれまで作れなかったような映画を撮ろうということで、それは何だろうと考えたときにSFだ!とおもって、美術や衣装もやりたくてこんなストーリーになりました」と、今回SF映画に挑戦した理由を明かす牧監督。
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撮影中の演出方法や癖について聞かれると、「楽しそうにしてる、ニヤニヤしてるとは現場でよく言われます。俳優さんに顔をすごい見られている感じがあって、僕のニヤニヤをヒントに向こうも答えを手繰り寄せている感じがあって、そうやって感情を表に出すことは共有する一つの手段なのかなと今はおもっています」と答え、「本当にいい演技のときは『フッ』という、笑ってしまった音がきっと入ってしまっているとおもいます(笑)」というエピソードでは場内にも笑いを巻き起こしていた。
1週間限定の公開だが、東京での初日舞台挨拶に続き、名古屋では3月11日(土)に映画パーソナリティの松岡ひとみと、大阪では3月18日(土)に映画パーソナリティの津田なおみと、ndjc2022監督4人とのトークセッションが開催される。
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「ndjc:若手映画作家育成プロジェクト2022」は角川シネマ有楽町にて公開中。3月10日~名古屋にて、3月17日~大阪にて劇場公開。