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【映画と仕事 vol.18】“作る”側と“届ける”側の垣根を超えて世界へ羽ばたけ!『シャイニー・シュリンプス!』続編に日本人プロデューサーが名を連ねているワケ

映画の仕事に携わる人々に話を聞く【映画お仕事図鑑】。第18回目となる今回は、実在するゲイの水球チームをモデルにしたフランス映画『シャイニー・シュリンプス!世界に羽ばたけ』で共同プロデューサーを務めた小田寛子氏に話を聞いた。

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『シャイニー・シュリンプス!世界に羽ばたけ』小田寛子プロデューサー
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  • (C)2022 LES IMPRODUCTIBLES - KALY PRODUCTIONS - FLAG - MIRAI PICTURES - LE GALLO FILMS
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これまで携わってきた仕事と現在の取り組み


――ここまでお話を伺ってきた中で、主にやられてきた海外作品の買い付け、配給・宣伝の仕事で、携わって印象深かった作品や海外とのやり取りでの苦労などがあれば教えてください。

私、背が低くて、20代の頃はいまよりも顔立ちが幼いこともあって、海外との打ち合わせの場に行っても「なんでお前が来たんだ?」という扱いを受けることが多かったんですね(苦笑)。無理して高いヒールを履いて、少しでも威圧感を出そうとしたり…(笑)。

ただ、私がアシスタントだった当時、同じように向こうでアシスタントをしていた人間が、徐々に決定権を持つ立場になったりとか、年齢を重ねていく中で業界のコミュニティみたいなものが形成されていて、そういう意味で、何かあったら相談できる人間が常にいましたし、働いていて「つらい…」という経験はそこまでないですね。(買い付け予定作品を)取り逃がして、怒られてつらかったりしたことはありましたけど…(笑)。

これまで関わった映画で、思い出深い作品はプレシディオ時代に配給に関わった『パラノーマル・アクティビティ』ですね。買い付けたのは当時の上司だったんですけど、急にポスタービジュアルに使用されている写真1枚が送られてきて、ストーリーもほぼわからない状況だったんですけど「これを検討しているから、パートナーを探すための資料を作って」と言われまして…。当時は参照になる作品も(同じようにモキュメンタリー手法を採用した)『ブレアウィッチ・プロジェクト』くらいしかなかったんですよね。

最初は「何これ?」という感じだったんですが、公開されて最終的には興行収入が6億円くらいまでいったんですね(※ちなみに制作費はたった135万円!)。買い付けた頃は、まだスピルバーグが絶賛して話題になる前のタイミングだったと思うのですが、当時、会社内での「この映画、絶対に当ててやろう!」という熱気がすごかったんですよね。仕事を始めて、わりと早い時期にあの作品に携わったこともあって、映画をヒットさせようと思ったら、あれくらいの熱量が必要なんだということを教えられましたし、ひとつのトレンドを作ることに関わることができたという経験もすごく大きかったですね。

宣伝もいろんなことを試して、社員が全員、常に大量のチラシをカバンに忍ばせていました。休みの日にプライベートで買い物に行ったりして「お仕事は何されてるんですか?」と聞かれたら、よくぞ聞いてくれました! って感じでチラシを渡したり(笑)。熱かったです。

あれを買い付けた上司がすごいと思いますし、プレシディオはあの作品の「続編権」を獲得していたんですよね。それでプレシディオの製作・配給による日本版続編として『パラノーマル・アクティビティ 第2章 TOKYO NIGHT』が公開されたんですけど、そういうビジネスセンスに関しても、勉強させてもらいました。

もうひとつ、日活時代に関わったインド映画で『きっとうまくいく』のラージクマール・ヒラニ監督の『PK』という作品も思い出深いです。それまでインド映画については全然詳しくなかったんですけど、映画の内容の素晴らしさはもちろん、ヒラニ監督がプロモーションのために来日されたことも、すごく心に残っています。関われたことが誇らしく思える作品です。

それまでホラー映画を担当することが多くて、両親に「観に行って」と言っても「疲れる…」とか言われてたんですけど(笑)、あの作品に関しては母が友人から「この映画を配給してくれてありがとう」というお手紙をいただいたり、個人的にも嬉しかったです。

ヒラニ監督とは、いまもやりとりをさせていただいていて、一生の友達を得ることができた作品だったなと思います。

――ここからさらに、フラッグでの小田さんの現在のお仕事――海外との共同制作作品などについて、詳しくお伺いしていきます。フラッグで新たな部署の設立にも関わられたとのことですが、そのあたりの経緯についても教えてください。

ちょうど10月1日から「グローバルコンテンツ部」という部署として始動して、コンテンツを作る過程と世に出す過程をひとつの部署で担うことになりました。

映画に関する具体的な業務としては、「日本で撮影をしたい」という企画について、ラインプロデュース(制作進行)のお手伝いをする制作受託の仕事がひとつ。

加えて、こちらで企画を立てて、海外のパートナーを探して一緒に映画コンテンツやTV、配信向けのコンテンツを開発するというもの。

それから、今回の『シャイニー・シュリンプス!世界に羽ばたけ』がまさにそうですが、「こういう企画があるんだけど、日本を舞台にするから一緒にやらないか?」など、既に海外で始動している企画に関して、共同で入らせてもらい、制作の一部や配給を担うというもの。

以上の3パターンがメインになります。

最初に挙げたラインプロデュース事業に関しては、映画祭などを通じてお話をいただくので、映画は私が窓口になることも多いのですが、実際の制作進行は制作経験が豊富にある社内のバイリンガルスタッフにほぼ任せています。

実際に現在、進んでいる企画があるのですが、半分を海外で撮影し、半分を日本で撮影するということで、日本での撮影に関してはスタッフのハイアリング(雇用)から制作まで、こちらで全て手配を行ない、撮影監督とプロデューサーが海外から来るという形になっています。

私が今特に力を入れ始めているのは、先ほど挙げた3つのうちの2つ目と3つ目、企画開発の部分や、海外との共同製作作品の配給という部分です。

――企画開発を行なった上で、海外のパートナーを探して共同で制作するという業務について詳しく教えてください。

いま、やっているのは、フラッグでアイディアを考えて企画を立てた上で、海外の制作会社に「こういう配信向けのドキュメンタリーシリーズを作りたいと考えています」と話を持っていき、そのキャスティングや内容について一緒に企画開発を進めて、配信プラットフォームやTV局などに売り込んでいます。

あとは、アイディアベースの映画の企画に関して、海外の脚本家の方を紹介していただいて、脚本開発の段階から一緒に進めていったりするということも少しずつですが、やり始めています。

――もともと、カナダで映画制作を学ばれているとはいえ、帰国後に携わっていた「買い付け」や「配給・宣伝」とは全く異なる「企画」「製作」にガッチリと関わられているんですね。

そうですね。ただ、海外の映画祭に顔を出して買い付けを行なったり、配給・宣伝をやってきたという点で、いま、どういうクリエイターが話題になっているのか? 社会問題などを含めての映画のトレンドやトーンが世界的にどうなっているのか? ということを吸収しやすいポジションにはいるのかなと思います。

実際、海外でもコンテンツの売り買いに関わっていた同世代の人間が、配信プラットフォームに転職したり、プロデューサーとして製作に関わるようになっている例が結構多いんですけど、そういう知識や経験を必要とされているのかなと思います。意外と自然流れでそうなっているのかなというのは感じますね。

ただ、そうした試みが許される環境があるというのが非常に大きなことだし、ラッキーだったと思います。企画・製作から配給までを行なう会社というのは、大手以外では決して多くはないですし、会社の規模が大きくなると、どうしても部署ごとのタテ割りの意識が強くなってしまうこともあるのかなと思います。その意味で、いま私たちがやろうとしていることは、すごく大きなチャレンジだなと感じています。

――企画開発を進めていく上で、大切にしているのはどんなことですか?

英語でも「Trust your gut.」という言い方がありますけど、「自分の直感を信じること」ですかね。

日本を扱ったコンテンツで海外の方とやりとりしていると、いまだにステレオタイプな日本をイメージして、推してくる方もいるんですよね。そこに関して、きちんと意見交換をできるパートナーでなければ、組んではいけないなと感じてます。

どんなに企画のコンセプトが良くて、キャッチーで面白かったとしても、“価値観”の部分できちんと共通認識を持てるか――「いまの時代にそういう日本を描くべきか?」ということを意見交換できて、リスペクトしてくれるパートナーでなくては一緒に仕事はできないなと思います。

逆にこちらが指摘をしたら、意外とあっさりと理解してくださることも多いんです。だからこそ、きちんと意見交換し、価値観のすり合わせをすることが大事だなと思っています。

それからもうひとつ、私ひとりでやっているわけではないので、「会社」としていま、どういうアジェンダを持っていて、どういうメッセージを発信していこうと考えているのか? ということは、チームで話し合うことは大事にしています。

――そして、グローバルコンテンツ部として、先ほど挙げていただいた業務の3つ目、海外から持ち込まれた企画の共同製作についてもお聞きします。今回、小田さんが共同プロデューサーを務めた『シャイニー・シュリンプス!世界に羽ばたけ』がまさにそうした仕事だとのことですが、この作品に参加されることになった経緯について教えてください。

この作品は『シャイニー・シュリンプス!愉快で愛しい仲間たち』の続編なんですが、1作目はフラッグが初めて買い付けを行なった作品なんですね。この作品を売ってくれたセールスエージェントは、以前から日本との仕事をしている方で、私が「共同製作で一緒に何か作りたい」と思っていることもずっと前から伝えていたんです。

1作目がフランスで大ヒットして続編を作るという話になった時、当初は劇中の「ゲイゲームズ」(※主人公たちが参加する実際に開催されているLGBTQ+のスポーツ&文化の祭典)は香港で開催されるという設定だったんです。でもそのセールスエージェントが「日本での開催に変えるから、ヒロコたち、一緒にやらない?」と声をかけてくれたんですね。そこで「やる!」と答えたら、少ししたら脚本が届きました。

私も彼にはずっと「一緒に合作をやりたい」と言い続けていたんですけど、彼のほうも、私たちとやりたいと思ってくれたのには理由がありまして。

まず“日仏合作”の作品で、ここまで商業的な“ザ・エンタメ!”というタイプの作品やコメディってこれまであまりなかったんですよね。それをやってみたら面白いんじゃないか? と。私たちにとっても、1本目の合作ですから、それなりの規模で公開される海外でインパクトのある面白いことをやりたいという思いもありました。

もうひとつ、あちらの製作会社がフラッグと似ていて、普段はCMや映像制作をやったり、広告代理店が主業務で、年に1本だけ映画を作っているという会社なんです。そういう部分、会社の事業内容やスピリットの部分でリンクするところが多いということで、一緒にやりやすいんじゃないかということもありました。

――そこで共同製作することになって、どのように進められていったんでしょうか?

脚本にも意見がほしいという声をいただいて、脚本内容に関しても、こちらから提案させていただいた部分はありました。

もともと、コロナ禍以前にいただいたお話だったので、撮影も当初は日本で行う予定で、実際に脚本の最初と最後は日本が舞台になっていたんです。なので、日本での撮影を含めたファイナンスを組んでいたんですね。

その後、コロナ禍となり、それでもギリギリまで粘って、去年の東京オリンピックの開催時期を避ける形で何とか日本で撮影できないか? と奔走していました。それこそ(水球シーンを撮影するために)全国のプールを探し回ったり…。日本以外の配給権をライセンスしてくれたユニバーサルもできれば日本で撮りたいよね、とかなり待ってくれて、去年のアタマの段階で、日本で撮影予定のシーン以外はフランスとウクライナで撮り終えていたんです。

でもやはり、海外からの入国制限が緩和されなかったこともあって、8月くらいの段階で難しいということで、10月末にフランスのストラスブールで東京で開催されるゲイゲームスのシーンを撮影することになり、私ともう一人のスタッフがフランスに渡りました。

ただ、美術に関しては、こちらでデザイン・制作したものを現地に持っていきました。もともと、日本で撮影する予定だったので、デザインなどに関しては日本でやるつもりでしたし、監督も日本へのリスペクトを大事にしてくださって「日本の美術スタッフとやりたい」とおっしゃってくれたんです。

――実際に現地に赴いて、撮影はいかがでしたか?

監督が大事にされていたのが、フランスで撮影する客席の様子が「ちゃんと東京ゲイゲームスに見えるか?」という部分でした。「東京ゲイゲームス」が開催されていないので、誰も実際の「東京ゲイゲームス」の客席の様子を想像することはできなかったんですけど(笑)。ただ、2019年に日本でラグビーワールドカップが開催されたので、その時の客席の様子や雰囲気について、監督に写真などを送りました。ちょうど東京オリンピックのおかげで日の丸のハチマキだったり、観戦グッズがたくさん出回っていたので、それをいっぱい買い込んで、現地に持っていきました(笑)。

オリンピックにせよワールドカップにしろ、祭典の時って、日本の良さを少し「盛る」部分があるじゃないですか? そういう部分も含めて、日本のスタッフにすごく良いデザインをしていただけて、それをフランスのスタッフもすごく喜んでくれて、良い形でのコラボレーションができたと思います。

あと、監督は日本で撮影する予定だった当初からずっと「日本でやるなら、日本のLGBTQ+コミュニティを巻き込んで一緒にやりたい」ということをおっしゃっていたんです。フランスで日本人のドラァグクィーンとして活躍されているMadame WASABI(マダム ワサビ)さんという方がいらっしゃるんですが、その方にDMを送り「こういう映画があるんですが、出ていただけませんか?」とお願いしたところ、作品の内容に共感して下さり、なんとか日程を調整して撮影に参加してくださいました。

今、ロシアの反LGBT法のニュースが話題になっていますが、こういう形でタイムリーな作品になってしまったことはとても悔しいです。同時に今この映画を世に出す意義、監督たちの想いを再認識しています。エンタメには自分には関係ないと思いがちなことを自分ごととして捉えるのを手助けする力があると信じています。


《黒豆直樹》

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