役者の醍醐味は"その土地で暮らしているごっこ"!?
――本作に限らず、満島さんの演技を拝見していると豊かな感受性を感じます。「そう思わないとできない」から作品によっては事前に下調べもされると伺ったのですが、今回のように現場で吸い上げる形も多いのでしょうか。
本当に作品によりますね。準備に関しては、自分のスタイルは持っていません。私自身がすごくふざけた部分やダメな部分も持っている人で、常に「どうやって抜こうかな?」と考えてしまうくらい(笑)。映画の中とはいえ、演じる人物それぞれに呼吸が通っているとすてきだなと思っていますが。
撮影までの準備の期間は短いことも多くって、時間のない中で脚本で描かれていることにまっすぐ向き合うと、妙な力が入っちゃうこともあります。だから発想を変えて、意味がないことをいっぱいしたりします。連想ゲームみたいな感じで、脚本を読んでただ連想したことをやってみたり見てみたり…。今回は富山ロケだったので、新米の香りに誘われて3軒くらい米農家さんに行って、おいしいお米を作る方々とお話をしました。撮影をする土地で、そこにただ生きてたら「いいな」と思うところに顔を出してみるんです。"その土地で暮らしているごっこ"は、役者さんの醍醐味かもしれませんね。
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――とても面白いお話です。そういった部分から、役の人間味が生まれてくるのですね。
景色とか気候の持つ力には影響されます。影響を受けていたのか何なのか、映画を観て、南さんのしゃべり方が早くてびっくりしました。「なんでこんなに喋るの速いんだろう、南さんをどういう風に捉えていたんだろう」って。自分で分かりながら演じているわけではなかったので、新鮮に感じました。
南さんはギリギリまでは気持ちを話すけど、つかまれたくない人なのかな? とか、観ていて感じました。重くなりそうになったら去るとか、一緒に感動しそうになったらどこかに行くとか、人と共感・共有する時間が苦手な人なのかなとか。落ち着いて振る舞っているけど、大切な人を亡くしてまだ時間が経っていないから、本当の自分の気持ちがあふれかえる前に相殺するような感じがあって、女の人ってなんて健気なんだろうと思って観ていました。
――完成した作品をご覧になって、役の人となりに“気づく”という感覚なのですね!
これまでもそっちの方が多いですね。多分、無意識で演じている部分が多いんだと思います。
ただ、フィジカルの意識はすごく持っています。身体のクセは、自分の日常の習慣からなかなか離れられないじゃないですか。だから役柄によって、ちょっと違う体の動きをできるようには考えています。例えば同じ距離を歩くのでも、「この人は4歩だけどこの人は2歩でいけるな」だったり、「この人は普段から草履をはいているから足が地面から離れにくい歩き方だろうな」といったことは意識していて。
今回本当にラッキーだったのは、子ども役のふたりが地元の小学生だったことです。実際にその地で生きている子たちだから、目の前にお手本がいるんですよね。現場で子どもたちのお母さんとも話せたし、自由な子どもたちだったので、勝手についてくるのが面白くて。
北村光授くん(吉岡秀隆さん演じる溝口の息子役)のほうがちょっと私のことを意識し始めて「俺あっち行くけど満島さんも行く?」って言ってきて、「私はまだここにいるかな」と返したら「じゃあ俺もいようかな」って残ったりすることもありました(笑)。それを見た吉岡さんが「懐かしいな。俺のときは田中裕子さんだった」と話していました。
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――現場のいい雰囲気が伝わってきます(笑)。しかし、いまおっしゃった通り現地の方がいてくれるのは大きいですね。僕たちが映画で観るのはあくまでその人物の一部であって、描かれないだけで人生はそれぞれにある。ただ演技ではその描かれない過去だったり生活も匂わせないといけないと考えると、その土地の風土や空気感を知っている人たちの存在は心強いなと感じます。
撮影した場所には実際に住んでいる方もいるのですが、家賃が1万円もしないようなすごいところなんです。なかなかに特殊な場所に住んでいる方々だから、皆さん個性豊かでした。家賃が高い家に住む才能もあるけど、低すぎる家に住むにも才能がいると思うんです。「人生をどう面白がれるか」を体現している住人の方たちがいたので、余計に感じやすかったですね。
なんだか私の演技の在り方って、植物っぽいんですね(笑)。土地の光を浴びて光合成して、地面から水を吸い上げるみたいにその場所の空気を感じて、人とふれあって…。確かにそうやってお芝居しています…。