アカデミー賞史上初となる国際長編映画賞、長編ドキュメンタリー賞、長編アニメーション賞3部門同時ノミネートとなったドキュメンタリー映画『FLEE フリー』。公開を前に、主人公の青年アミンが過去のトラウマと向き合う中で、少年時代に自覚した同性への憧れや苦悩をふり返る様子を捉えた本編映像がシネマカフェに到着した。
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主人公アミンが誰にも明かしたことのなかった自身の過去を、長年の親友である映画監督(本作のヨナス・ポヘール・ラスムセン)に対して初めて語る物語を録音し、それを基にアミンの人生で起きた記憶を鮮やかに描くため、また、アミンをはじめ周辺の人々の安全を守るためにアニメーションが用いられた本作。
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この本編シーンが映し出すのは、1980年代後半、アミンが“難民になる前”の日常の風景だ。彼は、生まれ故郷であるアフガニスタン、カブールで父親不在の不安の中でも母や兄や姉たちと穏やかに暮らしていた。姉たちのカード遊びに付き合うのをやめたアミンは自分の部屋に戻る。部屋には最高のアクションスターの代名詞であるチャック・ノリスやジャン=クロード・ヴァン・ダムなどの主演作ポスターがところ狭しと並ぶ。
幼い頃から男性への憧れを自覚していたことを明かす現在のアミンによる言葉をナレーションにしながら、ヴァン・ダムのポスターを見つめながら微笑むアミンの姿を捉えていく。「ジャン=クロード・ヴァン・ダムに恋してた。本当に夢中だった」と笑いながらふり返る現在のアミン。
当時のアミンは、同性に憧れるということの意味を知らなかった。彼は続けて「アフガニスタンに同性愛者はいない。その言葉も存在しない。家族にとって恥となる。だから、自分がゲイだと認めにくい」と、アフガニスタンにおける同性愛者をめぐる状況を語り始める。この後、内戦の拡大をきっかけにアミンは家族たちと着の身着のまま故郷である祖国を脱出することになるが、同性への恋心と向き合う方法も、言葉さえも知らない彼は、それを大事な家族にも打ち明けられないまま多感な思春期を迎えることになる。
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この本編シーンで印象的なのは、とても自然にお互いの考えを分かち合うアミンとラスムセン監督の姿だ。2人は、アミンがデンマークに亡命を果たした直後の15歳の頃からの旧友でもあり、アミンが17歳で初めてゲイであることをカミングアウトしたのも監督であったという。20年以上に及ぶ2人の長い信頼関係が本作のベースにあることは想像に難くない。監督は、アミン本人の声と記憶を通して、これまで誰にも語られなかった彼の物語を聞きたいと考え、彼の心のペースに寄り添いながら約4年もの長い時間をかけて断続的にインタビューを敢行した。
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監督は、「アミンの物語は、合わせ鏡のように難民だった過去の話とセクシュアリティの話、ダブルのカミングアウトの物語のように見ることができると思います。ありのままの自分を受け入れられる余地を、自分の中に見出す成長の物語だと見ることもできるのかもしれません」と語っている。
なお、公開初日の6月10日(金)に、新宿バルト9でラスムセン監督によるオンライン舞台挨拶が決定している。
『FLEE フリー』は6月10日(金)より新宿バルト9、グランドシネマサンシャイン 池袋ほか全国にて公開。