水谷豊監督最新作『太陽とボレロ』が公開を迎える。
地方都市で活動を続けてきたアマチュア交響楽団のメンバーたちの織りなす人間ドラマが描き出される本作にて、まさに物語の中核をなす楽団のひと癖もふた癖もあるメンバーたちを演じるのは、エンタテインメントを知り尽くした水谷監督が選りすぐった実力派の俳優陣! 映画の公開を記念して、楽団メンバーを演じた田口浩正、藤吉久美子、田中要次、六平直政、河相我聞、原田龍二に話を聞いた。
――水谷豊監督作品にご出演されての感想を教えてください。
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田口浩正(牧田九里郎/オーボエ):憧れである水谷さん、本当に嬉しいオファーでした。
藤吉久美子(池田絹役/フルート):水谷豊監督の作品に出演できること、とっても嬉しかったです。フルートを演奏できるようになりたいと思っていたのでご縁を感じました。台本を読みながらどんどん引き込まれ、ボレロの演奏シーンは感動でいっぱいでした。
田中要次(遠藤正道役/ホルン):水谷豊さんと監督作品で初めてご一緒出来て、とても感激です。監督のジョークがとても楽しく、場を和ませてくれて、動画に撮っておきたいぐらいでした。
六平直政(吉村益雄/コントラバス):オファーを受けたときは、素直に嬉しかったです!しかし、台本を読んで、コントラバスの練習が大変だなぁと思いました。水谷監督の細かい、理にかなった演出はとても的確で、素晴しかったです。
河相我聞(片岡辰雄役/副指揮者):話をいただいた時は「え?本当の本当に僕ですか?」と、マネージャーさんに何度も聞くぐらいビックリしましたが、とにかくとにかく嬉しかったです。美しい風景と音楽が聞こえてくるような素敵な脚本で、台本を読み終えると心がとても温かい気持ちになりました。私の役については「え? 僕は片岡役で間違いないですか?」と思ったぐらい自分が今までが演じたことのないタイプの役で動揺しました(笑)。
原田龍二(与田清役/チェロ):監督作品は拝見してましたので、「ようやく出していただけるんだな」と嬉しかったですね。ここのところ、オールバックの豊さんと「相棒」の現場でご一緒する機会が多かったので、長髪を振り乱して指揮をする姿を見るのは新鮮でした。「相棒」の現場で、演技に対するアドバイスをいただくことはこれまでもあって、そういう意味では今回も普段と変わらない関係でできたのかなと思います。やはり、ご自身で演じられるので、演出がわかりやすいですよね。僕なりの言葉で豊さんを表現するなら「ちょっとおしゃべりなローマ法王」です(笑)。慈愛に満ちていて、僕は30年、この世界にいますけど、一番優しい人です。
――撮影で印象深いシーンや思い出、裏話があれば教えてください。
田口:水谷監督の中に、イメージがしっかりあって、イメージ通りにいかない時は監督が演じて下さるので楽しく演じることができました。
藤吉:ボレロの撮影シーンは、オーケストラ、客席のエキストラのみなさんの心をひとつにまとめ1シーン終わるごとに拍手の嵐でした。水谷監督の魅力の成せる業だと思いました。
田中:楽団メンバーでのバーベキューの乱闘シーン、雨上がりで川が増水しており、確か一発勝負で撮りましたかね…?いや、ドローン撮影があったから2回かな? とにかく安曇野の雪解け水は冷たかったです(笑)。
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六平:演奏シーンですね。コントラバスのサオの部分に、コントラバス指導の菅野先生に音階の印をつけていただき、少しずつ指で押さえる部分を覚えていきました。中々、気長な勉強でした!
河相:水谷監督が演出をつける時、要所要所で「ここはこんな感じで」と実際にやってみせてくれるのですが、説得力も発想も当然ながら凄いわけです。水谷さんの俳優としてのアプローチの仕方も学ばせてもらえているようでとても幸せな時間でした。印象に残ってるシーンは、自分のシーンでは片岡のマンションのところです。全体では川辺でのバーベキューのシーンがとても印象に残ってます。これは観ていただければきっとわかると思います。
原田:河相我聞くんが演じる片岡と対峙するシーンですね。僕の演じた与田の片岡への歪んだ感情の仕方を豊さんに演出いただいたのが、すごく印象に残っています。河相我聞くんとは僕がデビューしたドラマ以来、22年ぶりの共演だったんですけど、久々の共演がこういう関係性の役柄で…「俺はこうするから」みたいなやりとりもなく、お互いに無言で久しぶりの共演を楽しんでました。
――楽器の演奏シーンがあったみなさんは、コロナ禍での延期期間も含めてかなり長い期間、楽器の練習をされたと伺いました。練習の苦労や撮影シーンの思い出についてお聞かせください。
田口:週に1度、1時間程度のレッスンをしました。個人的には指の動きを常にイメージしていました。日によって出る音が違うので、後半は指使いを中心にやってました。
藤吉:フルートはゼロからのスタートでしたが、毎週先生にレッスンしていただきZoomや対面レッスンで本番の直前まで練習しました。一昨年の1 月から毎週、自主練は時間のある限りしていました。
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田中:基本的に左指の3本しか動かさないから簡単かと思いきや、息の加減でも音程を操らなくてはならないので非常に難しかったです。ホルンは「世界一難しい金管楽器」とも言われているようです。とにかく息遣いひとつでプロにはバレてしまいますから、音が合っていなくとも怖じけずに音を出すことを心掛けました。
六平:吹き替えなしでやらなければならないので、とにかく頑張りました。コロナ禍で撮影が延期になったので、コントラバスの練習時間が増えて、1年近く練習しました。ギターと違って指で押さえる場所が決まっていないので、先生に教わりながら少しずつ覚えていきました。
原田:僕は楽譜が読めないので、弦を抑える部分も引く部分も全て丸暗記して指を動かしてました。最初から簡単ではないとは思ってましたが、その想像の100倍難しかったですね(苦笑)。演奏シーンで一番びっくりしたのは豊さんの指揮ですね。運動神経もよくてリズム感もあるので、全身を使ったリズムの取り方が本物の指揮者のようで、僕は一番近くにいて、本当は楽譜を見なくちゃいけないのに、ついつい豊さんの姿に見とれていました。
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――役作りで行なったことや意識したことがあれば教えてください。
田口:とにかくオーボエに慣れること。吹かされるのではなく、吹くことを意識しました。
藤吉:弥生交響楽団のエキストラの皆様とも同じ気持ちで演奏できるように、練習や待ち時間でも一緒に居て会話を重ねることで、チームワークが良くなってほしいなと思ってました。衣装も明るい色を選んで、どこにいても太陽のような明るさを目指しました。
田中:楽団員とはいえ、一流のプロではないので、楽器を持っていなかったら、どこにでもいそうなオッサンでいようと思いました。何よりも、とにかくホルンに慣れる、曲を覚える、そればかりでしたね。
六平:転勤することが決まっているサラリーマンの楽団メンバーで、自分のオーケストラを愛しているけどどこかノンキなおじさん風を意識しました。
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河相:私の出番でオーケストラに指揮棒を振ることはないのですが、副指揮者として袖で見ている時に指揮者の仕草が必要になるかもしれないと思い、YouTubeなどでいろんなオーケストラの映像や西本さん(※本作に参加している世界的指揮者・西本智実氏)の映像は見ておきました。
原田:やはり楽器奏者という部分は、ごまかしの利かない役だなという思いはありました。役柄的には楽団の“リーダー”的な存在ということでしたが、現場では六平直政さんという“猛獣”をいかにおとなしくさせるかということを重視していました(笑)。あとはやはり、みんな孤独な練習を重ねて、ここまで戦ってきたので、互いに励まし合い、褒め合いながら、演奏シーンの撮影には臨んでいました。
――音楽への愛のあふれる本作ですが、みなさんにとって音楽がどのような存在であるかを教えてください。
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田口:人生を回想してくれるもの、そして未来を感じさせてくれるもの。
藤吉:生きがいです。音楽のない人生は考えられません。
田中:言葉に頼らなくともメロディと音色によって、心を高揚させてくれたり、慰めてくれたり、忌まわしくさせられたり、短い時間で気分を相乗させたり、刺激したりする魔法のようなもの。耳から入れる“合法ドラッグ”とでもいいましょうか…(笑)?
六平:音楽は、私にとって、気持ちの変化を感じる風のようなものです。
河相:癒しだったり、元気をくれる存在。
原田:音楽を聴かない日はないし、音楽のない人生はないと思います。BGMというよりは、じっくり音楽に耳を傾けて楽しんでます。早朝にクルマで仕事に向かう時などは、必ずラジオでクラシックをかけてますね。クラシックって、僕にとっては音に包まれることで、気持ちをフラットにしてくれる音楽です。
――最後に、お互いの印象について、一言ずつお願いします!
■田口浩正から見た原田龍二
羨ましい人。
■藤吉久美子から見た田中要次
静かな中にもユーモアがあふれています。
■田中要次から見た六平直政
ブラックなジョークを毎日楽しませてもらいました。“六平砲”の標的には絶対にならないように気をつけて生きようと思いました。
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■原田龍二から見た藤吉久美子
今回、フルートを相当練習されていましたね。だからこそ、自信をもって演奏に臨まれているなと思いました。本当にずっと練習されていましたから。できる人なのに、絶対に努力を怠らないすごい方ですね。
■六平直政から見た河相我聞
子供のような男です!
■河相我聞から見た田口浩正
お芝居に対する思いが誰よりも熱く真剣な人
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『太陽とボレロ』は6月3日(金)より全国にて公開。
『太陽とボレロ』公式サイト<提供:東映>