ヴェネチア、ベルリンの国際映画祭をドキュメンタリーで初めて制した名匠ジャンフランコ・ロージの最新作『国境の夜想曲』から、中東の紛争地の治安を守り続ける、女性のみの「ペシュメルガ女性部隊」の本編映像とオフショットが到着した。
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本作の舞台となる中東。その紛争地域に国家とは認められていないが実質的にクルド人が暮らすイラク北部クルド自治政府が存在する。そのクルド自治政府が統括する武装部隊が「ペシュメルガ」。クルド語で「死と対峙(たいじ)する者」を意味し、強力な装備と練度の高さから戦闘力は1国の軍隊に匹敵するとされる。兵力は約22万人ともいわれ、クルド自治区の治安維持を担う。2003年のイラク戦争では米国を支援し、クルド人を弾圧していたイラクのフセイン政権を崩壊に導いた。
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そのペシュメルガには女性部隊が存在する。家族や友人をISISによって失い、二度と同じことを繰り返さないために戦う者や、家族がすでに武装部隊として活動しており自然な成り行きとして参加する者など様々。
本作では女性たちが大きな武器を持ち警備にあたる様子や、武器の手入れをし、束の間の休息にひとつの暖房とやかんを囲んで暖を取り、体を寄せ合って眠るなどの日常が記録されている。やかんにかざす手の中には、左手の薬指に指輪をしている者もいる。
また、撮影時のオフショットとして、ロージ監督を囲む女性兵士たちの写真も公開。移動のバス内で撮られたもので、ぎこちない笑顔ながらも監督と兵士たちの間に和やかな関係が生まれたことを感じさせる貴重な1枚となっている。
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クルド自治区ではISISと対峙する形がいまも続いている。2019年、アメリカにより当時のIS指導者アルバクダディが殺害され、弱体化したかに見えたが、すぐに次なる指導者を擁立。しかし、その指導者アブイブラヒム・ハシミ・クライシも今月3日に米軍の急襲により自爆死。アメリカ政府はこの作戦により、「おぞましいテロリストはこの世を去った。我々は世界中のどこであろうとテロリストたちを追い詰める」と話すが、クルドの人々にとって、安住の日はまだ限りなく遠いといえるだろう。
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『国境の夜想曲』はBunkamuraル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国にて順次公開中。