《text:キャサリン/Catherine》
2月のシネマカフェ編集部企画は「演劇と映画」。今回は『ファーゴ』『バスターのバラード』等で知られるコーエン兄弟の兄、イーサン・コーエン単独監督作『マクベス』を紹介します。
シェイクスピアの四大悲劇の一つを映画化
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これまで様々な監督によって映画化されてきた、シェイクスピアの四大悲劇の一つである「マクベス」。原題は「The Tragedy of Macbeth/マクベスの悲劇」で、勇敢な将軍マクベスが3人の魔女の予言に従い、妻と共謀し王を暗殺し王位に就くが、地位を失うことへの恐怖から様々な悪事を働いてしまう…というストーリー。
先日発表された第94回アカデミー賞には「主演男優賞」「撮影賞」「美術賞」の3部門にノミネートされている本作。アメリカでは映画館上映も行われましたが、世界的規模ではApple TV+での配信がメインとなっており、敷居が高そうなシェイクスピアの戯曲を、初心者も冒頭からぐいぐいと世界観へ引き込む独創的なものに仕上がっています。独創的でありながらも、原作のセリフに忠実で、ある種初心者だからこそまっさらな目線で世界観を楽しむことができるかもしれません。
豪華キャストの中でも一際異彩を放つキャスリン・ハンター
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主人公マクベスにデンゼル・ワシントン、妻のマクベス夫人には、イーサン・コーエンの公私ともにパートナーでもあるフランシス・マクドーマンド。いずれも日本では映画俳優としてお馴染みの2人ですが、実は舞台での実績も多数。2人が出てくるだけで、画面にグッと迫力が増すのはさすがといったところ。
そして冒頭の登場シーンから、出てくるだけで画面に引き込まれてしまうのが、キャスリン・ハンター演じる魔女。デンゼルにもフランシスにも負けない印象を残さねばならない役である魔女を、独特の動きと声で演じており、主役の2人を食ってしまっていると言ってもいいほどです。
徹底的に作り込まれた絵画のような世界観
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そして、本作の最大の特徴の一つがなんといっても白黒。同時配信されている製作の舞台裏の動画でも、白黒撮影へのこだわりが語られており、VFXも駆使し作られた幾何学的で白黒の世界観は、スタジオ撮影時も徹底されセットは全て白黒、マクベス夫人の一部を除いて衣装も殆ど全て白黒だったそう。
白黒だからこそできる光や影の細部へのこだわりが、気づいたら色が見えてくるような豊潤さを魅せるのも特徴です。どのカットをとっても絵画のような、アートブックを一枚一枚めくっていくようなそんな感覚にもなる世界観に気づいたら没頭してしまうこと間違いなし。
できることなら、ドルビーアトモス対応なのでぜひ自宅鑑賞の際はヘッドホンなどでの鑑賞をオススメします。サウンドの奥行きから味わうことで描かれる世界観の豊かさと妖しさをたっぷり味わうことができます。
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演劇ってどこか敷居が高そうで、特にシェイクスピアともなれば初心者にとっては、知識がなければ難しいのかも…と思ってしまうことも。でも、配信で世界最高峰の演劇を自宅で観れる時代だからこそ、ちょっと気軽な気持ちで観てみると良いかもしれません。悲劇ではありますが、コーエン監督ならではのどこか人間的な可笑しさも交える作品に仕上がっている本作は、初めてシェイクスピアの作品を観る人にとっても馴染める内容だと思います。