「傷は消えることはない」その上で大切なこと
受け継ぎ、伝えていくという意味で、この作品で重要なテーマのひとつとして描かれているのが今年で発生から10年を迎えた東日本大震災である。撮影は被災地であり、原発事故の爪痕がいまなお深く残る南相馬市で行われた。この作品への参加を通じて、高畑さんは何を感じたのか?
「あの震災が起きたとき、私は地元の大阪にいたんです。健康診断のために母と病院にいて、TVで津波の映像を見たんですけど、TV画面を通じて見ていると、どうしても“TVの中の出来事”になってしまっていて。東北に親戚がいるわけでもなく、ニュースではいろんな情報が流れてきて、悲惨な状況を知ってはいましたが、どこか自分のこととしてとらえられる“距離”ではなかったんだなと」。
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「今回、この作品の現場に入って、津波で全てが流されていまは樹が生えている海辺や、原発事故による立ち入り禁止区域の柵を見て、震災が自分のことになった気がします。(1995年の)阪神大震災は私も実際に経験して、実感を持っていましたが、3.11に関してはこれまでそうじゃなかった――この作品を通じてそこに向き合いたいという思いはありました」。
「(実際に被災地を見てみて)10年が経ちましたが、まだ癒えてないんですよね。もちろん、再生・復興してお店も再開されてはいるけど、傷跡の上に希望が乗っかっている感じがしました。これは新型コロナについてもそうだと思いますが、今後、良くなっていくけれど(傷は)消えることはないんですよね。消そうとしても、忘れようとしても無理で、それを踏まえてどう作っていくのか? それが大事なんだなと。完全な修復なんてない――大きく傷つくってそういうことなんだと実感しました」。