贅沢なひとときを、じっくり味わってもらえたら
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小林さんは「ペンションメッツァ」への出演が決まった際「特別なドラマになるといいな」と思ったのだとか。「いま、こういう時代なので…、ちょっと心が疲れたと思ってらっしゃる人も多いでしょうから、画面からあふれる(自然の)緑に触れてもらうだけでも、きっと深く印象に残るはずですし、私が演じたテンコさんと、魅力的な客人たちとの贅沢なひとときを、じっくり味わってもらえたら」
企画が動き出したのは昨年5月のこと。1回目の緊急事態宣言が解除されると、粛々と準備が始まったという。「いままで想像もしなかった状況になり、この先どうなっていくのか。そんな不安もありました」と松本監督。テンコと客人が向き合い、言葉を交わす姿には「人と人が出会い、顔を合わせて会話するというシンプルな話にしたくて。いまは、そういうことさえ難しい状況ですし、だからこそ、シンプルだけど大切なことを淡々と描きたかった」という切なる思いが込められた。
毎回こちらの想像を裏切ってくださり、敵わないなって
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松本監督が示す“シンプル”という言葉通り、舞台となるペンションメッツァが提供するのは、決してゴージャスな施しではなく、穏やかな時間と温かな空気、そしてテンコとの会話を通して“本当に大切なもの”に気づかされる瞬間だ。どこまでも自然なテンコを前にすると、どんな客人も内に秘めた思いのたけを素直にさらけ出してしまう。
「わたし自身、誰とでも深い部分で語り合えるテンコさんってどんな人なんだろうって想像を巡らせました。ひとつ言えるのは、圧倒的な自然に囲まれた環境に対峙して暮らしていける人って、やっぱりそれなりにエネルギッシュなんだって。客人が来れば温かくもてなすんですが、まず自分の気持ちを優先し、自然と寄り添えるたくましさがある。そういう面は細かく計算して芝居をしなくても、緑に囲まれたロケ地からパワーをもらって。わたしですか? わたしはただマイペースなだけ(笑)。テンコさんを見習いたいと思う部分が多いですね」(小林さん)
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松本監督はテンコという登場人物に、ある種のあこがれを込めたという。「いまの時代は、ペンションとはいえ、山奥にひとりで暮らす女性が、初対面の人を家に招き入れるって、難しいですよね。だから、テンコはある意味ちょっと“スーパー”な人。こんな風に他人と接することができれば、きっと新しい世界が広がるんじゃないかって」。
ちなみに、脚本の段階からテンコ役は小林さんを想定していたといい「デビュー当時からお世話になっていますが、小林さんは毎回こちらの想像を裏切ってくださり、敵わないなって(笑)。頭で考えた脚本が、撮影で別物になる気持ち良さをいつも味わっています」と全幅の信頼を寄せる。