ドラマ「姉ちゃんの恋人」第1話に登場した、有村架純が演じる主人公・安達桃子のセリフは現在のコロナ禍や社会状況にも通じている気がして、ハッとさせられた。
桃子がこの言葉をかけた相手、林遣都が演じるホームセンターの同僚・吉岡真人との出会いは、普段ならあまり使いたくはないが、紛れもなく運命的だった。2人をつないだのは、まさに“壊れかけた地球”のオーナメント。翌日直そうとしていた桃子の代わりにその“星”に気づき、人知れず修復してくれたのが真人だった。
そんな2人がクリスマス商戦のプロジェクトチームで対面を果たす。こうして始まった2人の恋は、あまりにも眩しく初々しく、それでいてあまりにも切ない苦難の道。第4話までで桃子と真人がそれぞれに抱える“影”の理由が分かったことで、新展開に突入していきそうだ。
有村架純×岡田惠和の6度目タッグ、“当て書き”の林遣都
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「姉ちゃんの恋人」、略して「姉恋」は、有村さんがヒロインを演じた連続テレビ小説「ひよっこ」やWOWOW連続ドラマW「そして、生きる」の脚本家・岡田惠和とタッグを組んだオリジナルストーリーで、有村さんは2年ぶりの民放連続ドラマ主演。「ひよっこ」はもちろん「最後から二番目の恋」や映画『阪急電車 片道15分の奇跡』などヒューマンドラマの名手として知られ、リアリティーある会話劇による群像ドラマに定評のある岡田氏の脚本作品に、有村さんが出演するのは今作で6度目。厚い信頼のほどがうかがえる。
演じるのは両親を亡くして以来、ひとりで3人の弟たちを養ってきた、よく笑い、よく怒り、よく泣く、感情表現豊かな“肝っ玉姉ちゃん”。「うるせー」「何だよー」と少々ガサツでも飛びきり明るい、かつてない役柄を生き生きと演じる有村さんの姿は新鮮だ。しかも、恋と友情、過去の罪にもがき続ける等身大の若者たちを描いた岡田作品「若者のすべて」(1994)を思い起こさせる「Mr.Children」による主題歌。この主題歌「Brand new planet」からインスパイアされて、桃子と真人をつなぐモチーフが地球儀になったという。
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一方の真人は、岡田氏が林さんをイメージした“当て書き”。林さんは「小公女セイラ」(TBS系)以来11年ぶりの岡田脚本作品で、有村さんとは映画『コーヒーが冷めないうちに』の共演者ではあったものの、本格的な共演は今回が初めて。
その真人は一見すると実直で、腰の低い好青年だが、「再就職とか俺の場合難しい」「酒は飲まない」などなど、逃れられない過去があることが小出しに匂わされてきた。桃子や先輩の高田悟志(藤木直人)とニコニコと会話しながらも、離れた次の瞬間すぐに表情が曇る。母・貴子(和久井映見)は真人が無事家に帰ってくることを密かに確認しながら、何事もなかったように「おかえり」と出迎える。そもそも、メールアプリのアイコンを設定していないところや、絵文字を全く使わないところも真人の閉ざした心とその頑なさを表しているように思う。
以下はネタバレを含みます。ご注意ください。
心の根っこで通じている2人…有村架純“桃子”のトラウマ
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2人の運命を感じさせるのは、地球儀だけではなかった。クリスマスプロジェクトの会議で指名された真人は、幸せの象徴であるクリスマスでも、そのきらきらがあまりに眩しすぎると、寂しかったり何かつらい思いを持っている人は目を背けたくなる、むしろそんな人たちも触れて、心が癒されるような本物のもみの木はどうかと提案した。それはプロジェクト担当者である桃子が願う、今年のクリスマスのコンセプトそのもの。春先に緊急事態宣言が出された“今年”だけに、桃子には止まってしまった“世界をもう一度動かす”という思いもあった。
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着々とプロジェクトの準備が進み、2人の距離も縮まっていく中で、第2話では、まるで太陽のような、一点の曇りもなさそうな桃子が抱えるトラウマが明らかになる。大学受験のその日、目の前で両親が交通事故で亡くなり、人生が激変してしまったのだ。進学や夢を諦め、弟たちと生きていくために市原日南子(小池栄子)のもと、ホームセンターのホームファッション売り場で勤続9年、懸命に働いてきた。
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あるとき、顧客のために届け物をした帰り道。配送部の真人に送ってもらうが、「怖い…とめてください」と車を降りてしまう桃子。両親の事故以来、車に乗ることも、自ら運転することもできなくなってしまった。「悔しい。何で克服できないんだろう。情けない」と自分を責める桃子に、真人は手を差し伸べようとするが躊躇。代わりに「克服なんて簡単にできることじゃない」と共感を言葉で伝える。「大丈夫?」と問われても「大丈夫です」と無理に笑顔を作ってしまう、そんな桃子のことが誰よりも分かるのだ。
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そのときに桃子が話した、“できたらいいな”の夢のドライブデートも2人をつないだ。クリスマスプロジェクトを終え、つながりが一度は途絶えてしまった2人が、赤くて小さな車を見かけたら、一緒にはいなくとも同じドライブデートに想像を巡らせている姿は微笑ましいことこの上なかった。
また、こんな状況下でも仕事を続けられることに対して、「ありがたい」と思うところも同じ。桃子にとっては3人の弟たち、真人にとっては母が“こんな自分”を生かしてくれる存在でもある。太陽と月のように正反対なのに、心の根っこでは通じている、お似合いの2人だ。
林遣都“真人”の贖罪、あまりにも残酷すぎる過去が明らかに
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しかし、桃子が親友・みゆき(奈緒)に話したように、どこか“幸せになることを諦めてる感じ”がする真人。親近感とともに、真人を“守ってあげたい”“頑な心を溶かしたい”、という思いが強くなっていく。第4話ではついにその理由、真人とその母が慎ましく、誰にも迷惑をかけないようにひっそりと暮らす理由、彼が右手を忌み嫌う理由、桃子と楽しく会話した後に見せる影の理由が明らかになる。
かつて、サラリーマン風の2人に絡まれ、目の前で恋人が暴行されて、激高した真人は相手に重傷を負わせる事件を起こしていた。正当防衛ともいえるはずだが、恋人は「暴行はなかった」と証言した。捜査や裁判の過程で何度も繰り返し状況を説明しなくてはならないセカンドレイプともいえる状態にはとても耐えきれない、と思ってのことだろう。だからこそ、彼女を責めることもできず、母や亡くなった父の人生までも変えてしまったことに、真人はただ自分だけを責めてきた。
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真人の贖罪は、桃子が想像しているよりもはるかに重く彼にのしかかっている。そんな真人の胸の内など知るよしもなく、バーベキューWデートの直前、弟たちに「大丈夫、姉ちゃんは幸せにしかならないから」と言葉をかけていた桃子。第4話ラストでは、自分にとっての意味で「起きてしまったことは変えられない」と語る桃子が、「私と付き合ったらどうですか」と真人に告白したが、いまのところ彼が応じるとは思えない。
この世界では、なぜこれほどまでに不公平で、残酷な仕打ちが起きるのか。桃子と真人ならば、そんな世界でもちょっとずつ作り直して、生き直すことができるのでは? そう希望を託したくなるのだが…。2人の恋の行方を、ただ引き続き見守っていきたい。