ネタバレありの予告編が登場する日も近い? スマホ時代の予告編のあり方とは?
――先ほど、WEBやSNS向けの映像を制作するという話も出ましたが、WEBが興隆してきたのは入社されてからですか
入社した頃はまだ全然でしたね。当時はフィルムが最期のときを迎えている時期で、予告編もフィルムでした。私はできませんでしたけど、同期に入社した人間の中には、専門学校で学んでネガ編集をできる人もまだいましたね。
「あと1~2年でそういうのもなくなるかもね」と言ってたら、本当になくなってしまって、私が入社して5年くらいでもう全てデジタルかDCP(デジタルシネマパッケージ)になってました。(移行が)早かったですね。それまでは大きなフィルムを抱えて運んでたんですけど、いまはほとんどデータでのやり取りです。
――作業工程も大きく変わったんですね。
昔はDVDもまだ普及してなくてVHSに映像を取り込んで、編集して、最終的にフィルムに焼いて映写機にかけていました。そういう意味で、ちょうどいい時代を過ごせたのかなとも思いますね。フィルムの最期の時期を見つつ、デジタルでの作業に初期から携わることもできました。いまは「現像って何ですか?」という人も多いかもしれませんね(笑)。
――デジタルへ移行し、WEBの興隆によって、予告編やプロモーション映像を、人々が目にする回数も増えて、その存在価値も大きく変わったと思います。
そうですね。何と言ってもスピード感が違いますね。フィルムの時代は現像にも時間がかかりましたけど、いまは作ってすぐ見れるようになりましたし、こちらが求められるスピードも変わりました。
――以前は映画館かTVスポットくらいでしか目にしなかった予告編をいまではスマホや電車の広告などでいつでも見られるわけですしね。
そういう意味で、レイアウトやデザインも大きく変わったと思います。以前は、劇場などの大きなスクリーンで見ることを前提で作られていて、そうすると文字などが大きすぎるとちょっとバカっぽく見えちゃったものなんですけど(笑)、それがスマホで見るとちょうどいいサイズだったりするんです。
考えることが増えましたね。WEBやスマホサイズで見せる上で、どうするのが一番いいか? 特にWEBでしか使用しないプロモーション映像の場合、アップのカットを多めに入れるようになったり。
今後、新しい世代の人たちがどんどん出てきたら、私たちの世代が想像もつかないようなカッティングや編集をするようになると思います。
――スマホネイティブの世代が今後、増えていく中で「この映画、面白そうだな」と興味を持たせる予告編がさらに求められるようになりますね。
普段から映画を見る人は、黙っていても映画館に足を運んでくれるけど、そうじゃない人たちをも巻き込んでいかないといまの時代、「大ヒット」とはならないですよね。より広い層に興味を持ってもらうためのプロモーションが大事になってくると思います。
先ほどの予告編づくりの難しさの話と重なるんですが、予告編でターゲットの“間口”を狭めることはたやすいんですよ。「あの監督の作品です」とか「あの脚本家」「あのキャスト」と強く押し出していけばいいので。
でも、そこだけに収まってたら、ヒットには繋がらないので、間口をより広げていくというのが宣伝プロデューサーさんの考えであり、それを私たちは予告編で形にしないといけないんです。
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――いずれ、認証付きで“ネタバレ”を含む予告編が登場する時代になるかもしれませんね?
あり得ると思います。私が入社してからこの十数年だけでも「こんなにも予告編がわかりやすくなっていくのか!」と驚くくらい、予告編は大きく変化しました。以前はもうちょっと意味深で、想像を膨らませるようなものが多かったけど、ここ数年で、見て安心して映画館に行けるタイプの予告編が増えたと思います。
肌で時代の変化を感じますし、そこは私も年齢を重ねながら仕事をしていく中で、意識して時代に付いていかないといけないなと思っています。うちの池ノ辺が以前から「常にアンテナを張ってなさい」ということを言っていて、昔はその意味がわかってなかったんですけど、今になって「そういうことか…」としみじみと感じます(笑)。
若い子たちのことを「わかりません」なんて言ってられないですよ。音楽にせよ俳優にせよ「いま、若い子たちが好きなのは何か?」ということは、意識して追いかけるようにしています。もともと、多趣味なのでそれが苦ではないんですけど。
結局、自分がろくに理解もせず、キライなままでは納得して仕事ができないですよね。自分が携わる映画だって、もちろん私自身の好みはありますけど、それをキライなままではいい仕事にならないので、まずはいいところを見つけるところから始めます。
――これまで携わった作品の中で、印象深い経験、忘れられない思い出などがあれば教えてください。
河瀨直美監督の『あん』で、ナレーション録りが必要で、主演の樹木希林さんとお会いすることができたんですね。撮影現場にお邪魔させていただいて、ナレーションのセリフで「どのシーンも『これが最後なのかな?』なんて思いながら頑張っています」という言葉もあったりしたんですけど、樹木さんは笑顔で「やるわよ」と引き受けてくださって。佇まいがすごくて…忘れられない経験ですね。
専門学校時代に下宿させてもらってお世話になったおじとおばが住んでいたのが東村山だったんですけど、撮影現場もちょうど東村山だったんです。「東村山で撮影があって、樹木希林さんとお会いできたんだよ」という話をしたら、すごく喜んでくれたんです。チケットをあげて、映画も見てもらえて…。もう、おじとおばは亡くなってしまったんですけど、あの時は少しは恩返しができたかなということで、私情も交じりつつ忘れられない作品になりました。この仕事をやっていてよかったなと思いましたね。
――仕事でやりがいを感じる瞬間について教えてください。
自分が担当している作品について、周りに話せないことが多いんですが、何も知らない友人が、私の作った予告編を見て「あの映画、すごく面白そうだよね」と言うのを聞くと嬉しいですね。あとはやはり、宣伝プロデューサーが喜んでくれた時も本当に嬉しいですし、その作品がヒットにつながるともっと嬉しいです(笑)。
――今後、お仕事でやってみたいこと、実現したいことなどはありますか?
作品のヒットにつながる予告編を作っていくことが仕事ですが、いまやっていることの延長線上で、私に頼んでよかったと思ってもらえるディレクターになっていかないといけないなと思います。新しいことをやりたいというよりも、いまできることを着実にやっていくしかないのかなと。その上で先ほども言いましたが、常にアンテナを張り続けて、新しいものをどんどん吸収していかないといけないなと思います。
ただ、基本的な人間の感動するポイントや「この映画、見たい」と思わせる要素というのは変わらないと思うんです。新しい時代に取り残されないようにしつつ(笑)、変わらずに地道にいい予告編を作っていけたらと思いますね。
――最後に映画業界を志す人たちへメッセージをお願いします。
この仕事、宣伝にも携わりつつ、作品づくりにも深く関係する総合的な仕事だなと思います。いろんなことができる仕事だと言えると思うので、狭い世界だと思わずに、興味を持ってもらえたらと思います。
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