この「チェルノブイリ」のような、1話あたり長くても1時間前後、全3~10話ほどのリミテッド(ミニ)シリーズのドラマは、近年ハズレなしといっていい。約2時間の映画では描き足りない深掘りしたテーマとメッセージを盛り込みつつ、20話近い通常のTVシリーズとはまた異なる濃密さを味わえることから、「ファーゴ」や「アメリカン・ホラー・ストーリー」「TRUE DETECTIVE/トゥルー・ディテクティブ」などを例に出すまでもなく映画界のスターやクリエイターが続々と参入している。
また、話数の少なさから、見たいものをなかなか絞り切れない配信ドラマの“入り口”にもなりやすく、1シーズンで完結するというゴールが示されている点でも気軽さがある。そこで、この秋絶対に見ておきたいリミテッドシリーズ3作品に注目した。
ある意味、ホラーよりも恐ろしい…「チェルノブイリ」
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1986年4月26日午前1時23分、旧ソ連(現ウクライナ)のチェルノブイリ原子力発電所で起きた爆発事故を、入念なリサーチを基に再現した実録ドラマ。これまで地球が経験してこなかった未曾有の原発事故が発生した後、建前の数字で実態をごまかし、隠蔽しようとした旧ソ連政府と、被害・影響を把握し、その拡大を少しでも抑えようとした科学者や技術者、消防士などの姿を、まるでこちらが追体験しているかのようにリアルに描いていく。
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現在では鋼鉄のシェルターに覆われ、観光地と化しているチェルノブイリ。いままでもドキュメンタリー映画や劇映画は公開されてきたが、「ゲーム・オブ・スローンズ」の米HBOのもと製作された今作は、どんなパニックスリラーよりも緊迫感と絶望感に支配されている。
事故発生直後、閃光に数秒遅れて民家に届く爆音。オレンジ色の炎からひと筋、天に向かって立ち上るのは異様なまでの青い炎。しかし、原発内では事態を掌握できず、判断力、統率系統は混乱し、あまりにも無防備な作業員たちが次々と被爆していく。一報を受け、深夜休んでいた消防士たちもかり出され、消火活動に当たる。もちろん防護服など身につけていない。落ちていた黒鉛に触れたある消防士は、すぐさま動けない状態になってしまう。そして、原発から上がる炎をまるで花火でも見るかのように見物する近隣住民たちの上に(子どもや赤ちゃんにも)、死の灰が降り注ぐ。
なのに、「事態は制御下にあります」と言い放つ所長。測定できる線量計はMAXで振り切れてしまっている。だが、事実ではない報告が上へと伝わり、ついにはゴルバチョフ書記長の耳に。この日、原子炉の運転実験を指揮しながら、冷静さを失ったかのように「タンクが爆発しただけ」と言い張っていた副技師長は、自身が倒れ所内から一歩外に出てようやく、とんでもない事態が起きていることに気づくのだ。
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海外ドラマでよく見かける顔ぶれが揃う中、この原発事故の調査と事後処理に挑むのは、数々の舞台や映画で鳴らした名優たちだ。放送に先駆けて解禁された10分の冒頭映像でまさかの選択をする調査委員会の責任者、核物理学者ヴァレリー・レガソフを、『シャーロック・ホームズ シャドウ ゲーム』のモリアーティ役で知られるジャレッド・ハリス。
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ゴルバチョフ書記長に現場対応を任された旧ソ連閣僚会議副議長ボリス・シチェルビナに、『アベンジャーズ』シリーズにも出演する北欧俳優一家の父、ステラン・スカルスガルド。
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そして事故の真相解明に奔走する核物理学者ウラナ・ホミュックに、『奇跡の海』や『博士と彼女のセオリー』のエミリー・ワトソン。さらに、『ダンケルク』『聖なる鹿殺し』のバリー・コーガンをはじめ、市井の人々を演じたゲスト出演者たちもそれぞれが強い印象を放っている。
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製作総指揮・脚本は、『ハングオーバー』シリーズや『最凶絶叫計画』シリーズとコメディ作品を数多く手掛けてきたクレイグ・メイジン。そして、スウェーデン出身で「ブレイキング・バッド」の伝説的エピソードや、マドンナ、デヴィッド・ボウイなどのミュージックビデオを手掛けてきたヨハン・レンクが監督をつとめ、全く救いのない現場に立つ様々な人間の内面を見つめながら、多彩な視点で観る者をぐいぐいと引き込ませていく。廃炉となったリトアニアの原発でロケを敢行したリアリティもあってか、“目には見えない”はずの放射能が見えてくるような気さえしてくる。
旧ソ連は社会主義国家とはいえ、地球規模の核災害など起きていないという“建前”をふりかざす上層部の対応の様子は、何やらどこかで見たような…。東日本大震災による福島第一原発事故の処理が現在進行形だからこそ、私たち日本人にとっても重要なドラマであることは確か。見るのがつらい、という人もいるかもしれない。それでも、事態の悪化を食い止めようと命をかけて行動し、風化させてはならないと覚悟を決めた人間がたどり着いた境地と、それに伴ったあまりにも大きな犠牲を、どうか受けとめてみてほしい。
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※1話63~76分×全5話 スターチャンネルにて放送中/Amazon Prime Video スターチャンネルEXにて配信中
人生を奪われた冤罪の少年たち…「ボクらを見る目」
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今作は、全米を震撼させた実際の悪名高き冤罪事件「セントラルパーク・ジョガー事件」を、黒人女性監督として初めてアカデミー賞作品賞にノミネートされた『グローリー/明日への行進』のエヴァ・デュヴァネイが手掛けたNetflixのリミテッドシリーズ。今年5月31日より190か国で配信されると、アメリカでは原題の「#WhenTheySeeUs」がTwitterのトレンド入り。また、Netflixの発表によれば、アメリカでの1日あたりの視聴回数の最高記録を達成したという。
確かに、人生を奪われた少年たちが経験した理不尽さへの憤りや絶望、そして現在のアメリカへの痛烈な批判はNetflixのシリーズの中で過去最高級のクオリティと完成度かもしれない。
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1989年4月16日、ニューヨークのセントラルパークをジョギングしていた白人の女性がレイプされ、頭部を殴打され瀕死の重傷を負った事件が起きる。そのとき、たまたま友人に誘われて、あるいは単なる好奇心からセントラルパークに集まっていた黒人やラテン系の少年たち、ユセフ、ケヴィン、アントロン、レイモンド、コーリー。いずれもハーレム出身で、ユセフとコーリーは友人同士だったが、2人以外は顔見知りですらなかった。
やがて事件が発覚すると、当時14歳から16歳だった少年たちは保護者や弁護士の付き添いもなく、水や食事も与えられないまま、警察の“シナリオ”ありきの圧迫的な誘導尋問により自白を強要されてしまう。裁判ではそれぞれ身の潔白を主張するも、現場から見つかったDNAが5人の誰とも一致しなかったにも関わらず、有罪判決が下され、彼らは収監。メディアは5人を「セントラルパーク・ファイブ」と名付けて晒し者にした。
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事件の発生と警察署での1話から、胸が締めつけられるような裁判所の2話、3話&4話では鑑別所での日々や、大人になり服役を終えた彼らの様子、さらに真犯人が罪を告白し、真相が明らかになるまでが丁寧に描かれていく。見事な起承転結。たった一夜で激変した少年たちと、その家族の境遇と心情に徹底して寄り添っていく。
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しかも、この冤罪事件が犯罪率の高かったニューヨークにさらなる影を落とす中、新聞4紙に“少年たちを裁くため”に「死刑制度を復活させろ」と大々的な広告を打ったのが、誰あろう、当時ニューヨークの不動産王だったアメリカ大統領ドナルド・トランプだ。当時からメディアを通じてヘイトをまき散らす姿が、ドラマの中ではっきりと映し出されている。
そんな今作は、上記の「チェルノブイリ」と第71回エミー賞でリミテッドシリーズ部門の各賞を争ったことが記憶に新しい。結果的には「チェルノブイリ」圧勝だったものの、ジャレッド・ハリスやヒュー・グラント、さらにマハーシャラ・アリ、サム・ロックウェル、ベニチオ・デル・トロといったオスカー俳優たちを差し置いて主演男優賞に選ばれたのが、なんとコーリー役の少年時代から大人時代までを演じたジャレル・ジェローム。
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2016年の映画『ムーンライト』で、高校生の主人公が想いを寄せる相手役を演じて注目されたジャレル。彼が演じたコーリーだけは、当時16歳だったため少年法では裁かれず、たったひとり成人用の刑務所に送られ、最も長い刑期を過ごすことになった。受刑者からはリンチに遭い、刑務官からもいじめに遭い、独房に入れられた。「オレンジ・イズ・ニュー・ブラック」でも触れられていたように、こうした刑務所には潤沢な予算などなく、環境は劣悪だ。クーラーも壊れてしまった灼熱の独房で、次第に精神に異常を来していくコーリーが、“あの日セントラルパークへは行かなかった、もう一人の自分”に思いを馳せるシーンは涙なしでは見られない。
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このコーリーをはじめとする5人を、デュヴァネイ監督は新たに“無実の罪を晴らした(Exonerated)ファイブ”と呼んでいる。2002年に無実が証明された彼らは、2014年、実刑を下したニューヨーク市とも全面和解。実際の本人たちも映し出されるが、壮絶な体験をし、人生の一部を奪われたはずの彼らがみな、穏やかな表情をしているのが印象的だ。製作総指揮のひとり、オプラ・ウィンフリーによる「今、ボクらを見る目」では製作の裏側や本人たちの素顔も目にすることができる。
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ちなみに、無実の彼らを訴追した張本人の女性検事は、引退して小説家となっていたが、ドラマ配信後にSNSで大バッシングされ、出版社からは契約打ち切り、被害者支援のNPO団体を辞めている。演じているのが、子どもの裏口入学で逮捕された「デスパレートな妻たち」のフェリシティ・ハフマンというオチつき。
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※1話64~88分×全4話 Netflixにて配信中
性被害者が救われるたった1つの瞬間とは…
「アンビリーバブル たった1つの真実」
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もう1本、今年の必見案件といえるのが「アンビリーバブル たった1つの真実」。現地時間10月16日に発表されたNetflix2019年度第3四半期決算で、配信開始から28日間で6,400万世帯に視聴される新記録をつくった「ストレンジャー・シングス 未知の世界3」と並ぶオリジナル作品のヒット作として挙げられ、いま注目を集めている。配信開始から28日間で3,200万世帯が視聴したという。
これは今作が、連続レイプ犯を追う女性刑事コンビとその被害者であり、セカンドレイプにさらされた少女を主人公にした実録ドラマであることを考えると、かなり画期的なことだろう。ピューリッツァー賞を受賞したT・クリスチャン・ミラーとケン・アームストロングによる記事「An Unbelievable Story of Rape」(原題)と、ラジオ番組「This American Life」(原題)で取り上げられた実話から生まれたドラマは、性被害のトラウマと真の意味での救済と回復をつぶさに描き出している。
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「性的暴力の描写が含まれるため、ご自身の判断の上でご視聴ください」と、「13の理由」のように注意喚起から始まる今作。ワシントン州、里親を転々とし、いまは青少年保護施設に暮らす10代のマリー・アドラーは、2008年8月11日、窓から侵入してきた何者かにレイプされ、警察に届け出る。しかし、フラッシュバックに襲われ気が動転するマリーの話と、犯人の指紋跡が部屋に見当たらないことから、ベテラン担当刑事はマリーの“でっち上げ”ではないかと疑いはじめ、かつての養母や友人、カウンセラーも彼女に不信感を抱いていく。
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時は流れて2011年のコロラド州。何百キロも離れた場所で侵入者によるレイプ事件をそれぞれ追っていたカレン・デュヴァル刑事とグレース・ラスムッセン刑事は、あまりに手口が似通っていることから同一犯の犯行とみて合同捜査を開始するのだが…。
「ビッグ・リトル・ライズ」などでも記憶に新しいが、なぜ、被害者である彼女たちが何重もの苦しみに直面しなければならないのか。マリーは最初に駆けつけた若い警察官と、後から到着した中年の担当刑事(どちらも男性)に同じ話を繰り返さなければならず、病院での検査も屈辱的といえるほど。“なぜ信じてくれないの。もうどうでもいい、どうにでもなれ”、そんな彼女の心の声が頑なな表情から聞こえてくる。そんな彼女にとっての救いは、犯人逮捕だけではなく、閉ざして冷めきった心に再び光がともることなのだ。
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このマリーという難役を熱演したケイトリン・デヴァーは、ブリー・ラーソン主演の映画『ショート・ターム』でも父親から性的虐待を受ける少女を演じており、キャスリン・ビグロー監督『デトロイト』では「ゲーム・オブ・スローンズ」のハンナ・マリーと暴動に巻き込まれる少女、『ビューティフル・ボーイ』ではティモシー・シャラメと薬物に溺れていく少女など、壮絶な役柄ばかり。
「ヴァラエティ誌が選ぶ注目の10人の俳優」に選ばれるほどの演技力があるからこそだが、そろそろ幸せになって欲しい(?)と日頃から思っていただけに、2020年に待ち受けるだろうブレイクを喜んで見守りたいところ。次回作は、女優オリヴィア・ワイルドが初監督した映画『Booksmart』(原題)で、ジョナ・ヒルの実妹で『レディ・バード』のビーニー・フェルドスタインと共演している。
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一方、女性刑事グレース役を演じるのは『へレディタリー/継承』のトニ・コレット、そしてカレン役は『マーウェン』「ウォーキング・デッド」のメリット・ウェヴァー。トニは「ユナイテッド・ステイツ・オブ・タラ」、メリットは「ナース・ジャッキー」「ゴッドレス -神の消えた町-」でエミー賞を受賞している言わずと知れた実力派。2人はホラーやコメディのイメージを捨て去り、卑劣な連続レイプ犯を信念で追い続ける女性刑事をときに痛快に、ときに繊細に演じており、絶妙な距離感を保つバディぶりが深刻なストーリーにユーモアをもたらしてくれる。
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さらにショーランナーが、『エリン・ブロコビッチ』や『イン・ハー・シューズ』「アニタ ~世紀のセクハラ事件~」などのスザンナ・グラントと、『キッズ・オールライト』やフランシス・マクドーマンド主演「オリーヴ・キタリッジ」(これも傑作)のリサ・チョロデンコとあって、グレース&カレンの女性刑事2人と、マリーをはじめとする被害女性たちとの力強いシスターフッドには勇気をもらえるはずだ。
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※1話45~58分×全8話 Netflixにて配信中
いずれも、人間の弱さと強さを真摯にすくい上げた見応えのある社会派ドラマで、つらいけれども続きが気になるものばかり。この3作は、映画賞とともに発表される来年1月のゴールデン・グローブ賞(テレビの部)でも大きな話題を呼ぶに違いない。