認知症の症状が日に日に進んでいく元・中学校校長の父と、優しさに溢れた愛情で支える母、さらにそれぞれに人生の岐路に立たされる2人の娘の7年間を描きつつも、劇場にはすすり泣く声とともに笑い声が響き渡る。悲壮感一辺倒ではない、新たな認知症映画ともいえる本作には、蒼井さんをはじめ俳優陣を絶賛する声が続出している。
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◆「たくさんの笑いと愛と切なさで溢れている」
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本作は、自主制作映画『チチを撮りに』(’12)がベルリン国際映画祭など国内外10以上の映画祭で絶賛され、商業デビューを飾った前作『湯を沸かすほどの熱い愛』(’16)がロングランヒットとなり、日本アカデミー賞など国内映画賞を席巻した中野量太監督の最新作。
これまで“血縁にこだわらない”、むしろ“血縁よりも熱い”愛を描いてきた中野監督が、「オリジナル脚本へのこだわりを捨てられた」と語るほど直木賞作家・中島京子の同名小説に惚れ込み、改めて家族という血縁と、血縁でない者が結びついた夫婦の双方について、認知症という病を通して描き出している。
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「coco」レビュアーからは、「家族の絆や愛など奇をてらう事なく、真っ直ぐな映した作品で素直に感動した。前作もそうだが、死に向かう話なのに後味は悪くない」「所々に散りばめられたユーモア溢れるエピソードでそれほど重くなく見られる」「たくさんの笑いと愛と切なさで溢れているとても優しい映画でした」といった声が寄せられ、月日をかけて少しずつ自分自身や家族と決別していく“長いお別れ”と称される認知症を扱いながら、“優しい気持ち”になれて“家族に会いたくなって”劇場を後にする人が多い様子。
「『湯を沸かす…』に乗れなかった私は、あれの評価でよく語られていた「残酷だけれど温かい」「泣けるけれどもホッコリ」「家族愛に溢れている」という文句をそのままこの映画に充てたい」との声もあり、「先年亡くなった家族を思い出した」「親父と重なり涙腺が緩んでしまった」「数年前に送った父と山崎努さんの背格好が似ていて懐かしく感じました」「自分の両親のことに当てはめてみてしまいます」と、実際に家族を見送った人たちも含め、自身の家族と重ねるコメントも多い。
◆人生に迷う蒼井&竹内“姉妹”はじめ「キャストがみんなはまり役」
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そんな身近さを感じるのは、「認知症を初期から晩年まで丁寧に描き、同時に温かく見守る家族の姿」もつぶさに映し出していることが大きい。何より、「とにかくキャスティングが最高!」「キャストがみんなはまり役で素敵」「これ以上ない完璧なキャスティングが◎」などなど、この家族・東(あずま)家の面々を演じた俳優陣に感嘆の声が続々。
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「山崎努の認知症演技のリアルさで物語にどっぷり浸れた」「僅かな機微で魅せる山崎努は流石」「本当に認知症になってしまったかと思うほどの山崎努さんの演技」と、茶目っ気のある初期の姿から7年の間にゆっくりと、だが確実に認知症が進行していく様をリアルに演じた父・昇平役の山崎さんの熱演があるからこその没入感。
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また、「女優陣がみんな可愛らしかった」「松原智恵子さんのほんわかな雰囲気が素敵」「松原智恵子さんが演じる母の寛容さの背景にある芯の強さ」「蒼井優演じる次女に好感」「個人的には竹内結子の演技が良かった」など、次女・芙美を演じた蒼井さん、長女・麻里を演じた竹内結子、そして母・曜子を演じた松原智恵子の三者三様の女性たちの姿も印象的。
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なかには「場を和ませる母親役の松原智恵子さんがとてもいい。蒼井優さんの可愛さを再確認したのだが・・、クソぅ!」と、今回の電撃婚に悔しそうな(?)ファンの声までも。
◆「人生を見つめ直すチャンスをお父さんからもらえた」
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だが、劇中での蒼井さん演じる芙美は決して幸せとはいえない。カフェの経営を夢見ながらも実現には遠く、運命的な再会から新しい恋が始まるも続かない。それに身近にいることもあって、たとえ失恋の直後であっても、しばしば母に呼び出される。
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それでもあるとき、つながっているのかいないのか、よく分からない中での会話ながら、父から「ゆ~っとして」とダジャレのような(?)アドバイスを受け取ると、思いっきり「ゆ~っと」伸びをした後の彼女は、どこか憑きものがとれたかのよう。アメリカから一時帰国した姉・麻里にも「変わったね」と言われるようになる。
その麻里も、数年間いても馴染めないアメリカでの生活、コミュニケーションが足りていない夫や息子との関係に、“家族と離れている”からこそ結論を見出せるようになっていく。
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確かに認知症になった家族と暮らすことは、ひと筋縄ではいかない。「こんなに美しいものじゃない」「ファンタジー的」という声が上がるのも納得できる。しかし、この家族をこれほどまでに愛おしく感じるのは、認知症や介護といった避けられない親の老いを通じて、家族各々がそれぞれの愛を再認識し、積み重ねてきた家族の歴史を土台にして前を向いていくからだ。
その姿は、「子供たちがお父さんの認知症と向き合うことで自らの人生を見つめ直すチャンスをお父さんからもらえたのではないか」「介護に携わった家族一人一人にも変化と変容がありジンワリ沁みる。逞しくなっていく芙美の姿には特に打たれた」と、観る者に深い共感を呼び起こしている。
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『長いお別れ』は全国にて公開中。