キットカットショコラトリーで働く由奈(奈緒)は、夢の中でいつも同じ韓国人ユジン(Eddy of JJCC)とデートを重ねる。彼との仲が発展していくにつれ、由奈は次第に「運命の人ではないか」と意識し始め、やがて韓国にて本人と偶然対面することになる。夢のような本当の話、本当のような夢の話を、ほろ苦いビターとスイートが混ざり合うチョコレートのような演出で展開される本作。主演を務めた瑞々しい女優・奈緒とたじま監督に、日韓共同製作ならではの撮影時の思い出をふり返ってもらった。
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――ネスレシアターではすでに350万再生を超えていますが、反響や感想は届いていますか?
奈緒:SNSで「観た」とコメントやメッセージをいただきました! 中でも、「恋愛をしたくなった」という感想は、女の子たちの背中をちょっとでも押せたのかなと思えて、すごくうれしかったです。
たじま監督:うれしいかったですね! 私のもとには製作目線での感想が多く寄せられて、社会情勢はいろいろありますが、ピュアに「日韓合作、共同製作ってやっぱりいいよね」という温かいコメントがありました。
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――そもそも製作の下地として、日韓合作というのがあったんですよね?
たじま監督:そうですね。ネスレさんがショコラトリーの韓国1号店を出店する、というのが企画の大元にありました。どう物語化するか、どう話題にするか、日本と韓国でどう撮影するか、などを課題に進めていきました。今回はイ・サガン監督との共同製作なので、昨年7月、話し合うために韓国に弾丸1泊で行って、ふたりで物語を書いたんです。そのときに、「チョコレートといえば恋愛や恋心なので、その要素を入れたいね」という話になりました。日本に住む由奈と、韓国にいるユジンとの恋愛になるわけですが、韓国に1号店ができる話なので、日本から由奈が行って…、と、どんどん肉づけしていきました。
――夢と現実でふたりが出会うのは非常にロマンチックでありながら、ファンタジーだけで終わらない現実味あふれる要素が盛り込まれていたのは、どういった経緯だったんでしょうか?
たじま監督:物語の題材である「たとえ将来つらいことがあるとしても、その恋愛に踏み込むか?」というテーマは、私から出しました。これは実際に私が恋愛して、結婚して、子どもを産んで、という過程の中でいろいろあったので(笑)、日頃考えていることから生まれた物語だと思います。「それでもやっぱりこの人といるだろうか?」という疑問は、きっと多くの人が経験すると思うんです。それに対してYESかNOかは人により違うと思いますが、世の中に対して投げかけられたら面白いかな、と。
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――奈緒さんは、そのあたり、たじま監督の想いを汲んだ上での演技だったんでしょうか?
奈緒:最初にたじま監督とお話をする時間があったので、どういうものを描きたいかを教えていただきました。実際に私が結婚したり子どもを産んだりしているわけではないんですが、カメラの前でうそをつきたくないという気持ちがあったので、自分の中で大切な家族など、いろいろなところを置き換えて作っていきました。
――悩んだり、難しかったところは特にどこですか?
奈緒:夢の中で、由奈は赤ちゃんがいる設定なんです。赤ちゃんの前で夫婦喧嘩をするというシーンですね。結婚もしていないですし、赤ちゃんのことで喧嘩をする経験もないですし、何かに置き換えて想像もしづらく…ふたりで赤ちゃんを育てているからこそ生まれる衝突というのは、自分の中ですごく考えました。
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たじま監督:結婚して子どもを産んでからわかったことですけど、やっぱり子育てって大変で、体力的に疲れて、ふたりのストレスがいつの間にか増えてしまって、何でもないことでカーッとなったりするんですよね。(怒りの)レベルは人によって違いますが、ショートフィルムを演出する上で、思い切った喧嘩のほうが作品として面白くなると思ったので、奈緒さんにもエディにも理解してもらいました。キレイごとで終わりたくなかったし、人が見ていないところで夫婦がやるくらいの喧嘩の形を見せちゃっていいんじゃないか、と思ったんです。私も一番力を入れました。
――だからか、よりリアルな感じが出ていました(笑)。
奈緒:(笑)。
たじま監督:奈緒さんとエディからは想像できないシーンですよね(笑)。
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――たじま監督から見て、女優・奈緒さんの魅力はどこにありますか?
たじま監督:奈緒さんの過去作品を観たときに、「何て目がキラキラしているんだろう」と思ったんです。今時、珍しい純朴さというか、真っすぐ立っていらっしゃる感じが、すごくいいなと思いまして。お会いしたら、さらに惚れこんでしまって。
――純情さはぶりっ子と背中合わせで難しいラインだと思うんですが、奈緒さんは実にピュアな印象を受ける方です。
たじま監督:おっしゃる通りですね。そこって、すごく細いラインじゃないですか。奈緒さんじゃなかったら、由奈がわざとらしくなってしまった部分も出たのではないかと思います。いまの若い世代って、クールですよね。SNSで言いたい放題言えるし、自分が付き合う人も選べるわけなので、横社会というか。そこで失われてしまう純情さもあると思うんです。そうした社会に対して、今回の作品を投げるのは「どうしようかな」と思うところもあったんですが、うまく演じてくださいました。由奈は、すごく難しかったと思います。
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奈緒:いえいえ、本当にありがとうございます…。「純朴」と言ってくださったんですが、由奈ちゃんという子は、私から見ても真っ白で真っすぐなので、「本当にこうなれたらいいな」と思う女性でした。だから、演じていても楽しくて。真っすぐでいい子なのに、すごく怒るとか、壁ができるとかは、キレイごとではないリアルな部分が浮き出た作品だと思っていたんです。
よく「キャラクター」という表現をするじゃないですか? 私、その言い方はどうなのかなと少し思っているんです。例えば、すごくいい子でも、激しい一面もあるかもしれないし、付き合った人の前ですごく変わるかもしれない。ショートフィルムという短い時間の中で、由奈はいい子だけで終わらずに、多面的な部分も見せられたことは、演じていてすごく楽しかったです。
――一概には言えない部分を演じるのは難しそうですが、「楽しかった」んですね。
奈緒:そうですね。演じているときは本当につらいんですけど、終わってみたいま、つらかったものが全部「楽しかった」に変わっています。撮ったのは2017年秋と少し前なのに、それでも一場面、一場面、自分の中ですごく覚えているんです。
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――運命の恋の相手役エディさんとは、どうやってコミュニケーションを取っていかれたんですか?
奈緒:少しだけ勉強していたので、韓国語をちょこっと使いながらコミュニケーションを取りました。エディさんは本当にいい方で、すごくシャイなんです! そこがまた役としてもぴったりで、「初めまして」を言い合うシーンのお互いの照れ感とかも、たぶんリアルににじみ出ていると思います。
たじま監督:そう、エディはすごく純情なんですよね。相手役の男性候補は、サガン監督のつながりで名だたる方々がリストアップされたんですが、「エディが一番いいのでは」とサガン監督の一押しでした。その理由は純情だから&英語でコミュニケーションが取れるから。ショートフィルムで、しかも合作だと準備期間がなかなか取れないんですが、本作ではエディも奈緒さんもキャラクターに合っていたので助かりました。
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――エディさんが純情ゆえのハプニング、などはありましたか?
たじま監督:ありましたよ(笑)。ちょっとしたキスシーンがあったとき、サガン監督がエディに「男らしくないじゃない!!」と、すごく怒って「ああ…」って落ち込んでいましたね(笑)。「いまいくべきなのに、何でいまいかないの!?」ってすごく現場で怒鳴られていて、私たちは「韓国ってこうなんだ…」って(笑)。
奈緒:本当ですよね(笑)。私で、サガン監督が「こう!!」ってやったりして。お芝居のダメ出し、ということではないダメ出しですから(笑)。びっくりして、たじま監督とふたりで「すごいね…」って言っていました。
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――ショートフィルムならではの魅力は、どこにあると感じていますか?
たじま監督:短い中でいろいろな要素が凝縮されていることが、やっぱり面白いです。あとは、日常のちょっとした出来事をすごくドラマ化できるところ。見過ごしそうな小さいことをドラマタイズして、その中にメッセージも詰まっている作品がたくさんあるので、魅力だと思います。
奈緒:メッセージがダイレクトに伝わってきますよね。スピードが速いからこそ、観ている方の感情も同じく速いスピードで動くと思うんです。2時間の映画だと細かいところまで描き切るところを、ショートフィルムだと想像で補うからこそ自由に観られると言いますか。答えがないから、自分ですごく想像できる。観ている時間はショートかもしれないけど、その後、考える時間はロングなのが、すごく素敵なところだと思いました。
たじま監督:スライス・オブ・ライフ的なところがありますよね。
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――最後に、今後のおふたりの活動についても教えてください。
たじま監督:CMをやっていきながら、日々関心のある社会問題を、映像化していきたいです。社会問題の中にチャーミングさも取り入れるような作品をやりたいんです。私、是枝(裕和)監督をとても尊敬しているんです。家族というテーマを撮り続けていらっしゃって、真剣な問題なのに、ところどころにチャーミングさが必ず入るところ、本当に素敵だと思います。
奈緒:『いつか、会える日まで』をやってから、海外でやってみたい気持ちがすごく湧きました。また、すごく先の目標ですけど、お母さん役がやりたいです。観た方が自分の母親を思い出すようなお母さんをいつかやってみたいです。
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