撮影現場で3人が揃わなかったのには理由がある。池井戸潤の同名小説を映画化した『空飛ぶタイヤ』は、それぞれの立場で戦う者を描いた群像劇だからだ。1台のトレーラーが起こした脱輪事故をきっかけに、トレーラーを所有する運送会社の社長・赤松(長瀬さん)、トレーラーの製造元である大手自動車会社の社員・沢田(ディーンさん)、ある疑念の目を沢田の会社に向けるエリート銀行員・井崎(高橋さん)の物語が展開する。
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事故はなぜ起きたのか。その原因を突き止めたい赤松は調査を開始。彼の戦いは沢田や井崎にも波及するのだが、「僕は赤松のがむしゃらな戦い方が好きなんです」と長瀬さん。小さな運送会社の正義感溢れる社長について語る。「見ていて苦しいし、切ないし、救われてほしいとも思います。僕は演じる身として、そんな赤松が動物になっている瞬間を表現したかった。苦しみもがいていて、その場をしのぐしかなくて、格好つける暇なんてない彼の計算じゃない部分の心情に、僕自身もぐっときましたから」。
そんな赤松と対峙する沢田を、「すごく人間的」と言い表すのはディーンさん。自社の闇に気づき始める沢田に理解を示す。「出世欲がないわけではないし、事故に対して悲しみを感じていないわけでもない。企業に生きる人間だけど、そのルールに反発する気持ちもある。ずっと車線変更を続けているんですよね。そんな沢田が赤松から、決断のパスをもらう。損得じゃないところからこみ上げる直感みたいな正義と、社会のルールや理性がクロスするところ。そこにいた彼が前に進もうとする。すごく生々しいですよね」。
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「それぞれの正しさがあり、その正しさが衝突し合うことで争いや対立が生まれてしまうるんでしょう」と三者の思いに向き合う高橋さんは、自身の立場で大企業の闇に迫る井崎の戦いをこう語る。「どこか自分にとって気持ち悪いと感じる部分がある、だからこそ何とかしたい。そういった感情を胸に奔走する人たちの物語であり、井崎もその1人なんです。上に歯向かうことになるかもしれないけれど、自分の中で何かが気持ち悪いから暴きたい、正しさを追求したい。なぜそうしたいのか? 彼自身にも分かっていない部分はあったと思います」。
それぞれの正義、それぞれの戦いがあり、人は正義を巡る戦いと無縁ではいられない。それは、3人の実人生にも言えることだ。「僕の正義は、すごくシンプルです」と、長瀬さんが口を開く。「いいものを作りたい。ただ、それだけ。でも、シンプルでいることが一番難しくもあるし、いいものを作るだけじゃ駄目なときもある。大人になるって、そういうことを知っていくことでもあるんですよね。自分の正義はもちろん、人の正義も理解できてしまうから苦しい。『うんうん、分かるんだよ』って」。
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「うんうん、分かるんだよ」と言いながら豪快に泣き真似をする長瀬さんに対し、「その通り過ぎて突き刺さりますね」と苦笑するディーンさん。高橋さんも「完全に同意です」と大きくうなずく。「それぞれの事情がありますから。たぶん20代前半のときには想像できなかったことを、いまなら『僕がこの人ならどうだろう?』と想像できてしまう。そうやって、対人関係も錬成されていくんでしょうけれど」。
「みんな闘っているんです。そこが自分自身にもリンクするから、パワーが宿る。演じるって、そういうことですよね。説得力はごまかせない」と再び役に立ち戻り、自身の闘いから赤松の闘いに昇華させたものについて話す長瀬さん。等身大の赤松を演じられたのは、やはり40代を迎える自身の“いま”によるところも大きいようだ。もっとも、「『40歳になるから』とか、そういった気持ちはない」と言うが。「プロフィール上、その年齢になるだけ。体の変化はあるし、4Kも怖いけど(笑)。ただ1つ言えるのは、お芝居も音楽も年齢を重ねてからの方が楽しいということ。表現が豊富になってきているのは感じます。今日はどれをチョイスしようかなって、洋服を毎日選ぶ気持ちと似ているかもしれない」。
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長瀬さんを追う形で、ディーンさんと高橋さんも年齢を重ねる。「このまま楽しみ続けたいだけですね」と、まずはディーンさん。「役者の活動に限定して言うなら、求めてもらって全力でお手伝いをする立場。求められないと始まらないし、ただのエゴになってしまいます。そういった奇跡的なバランスあっての楽しみであり、クリエーションなんですよね。それが続くといいなと思いますし、仕事に対してパッションを持ちながら、家族に対してどう責任を果たすかの問題もある。その両立も重要です」。ディーンさんの言葉に続く形で、高橋さんが最後にこう締めくくる。「全くその通りで、年齢を重ねるほど、どんどん人間的なところに寄っていかないと、アウトプットもできなくなってきますから。何気ない生活が、これからもっと大事になってくると思います」。
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