「ウォードもかつてはジャコビーのように、警官として世の中を変えたいと思っていた。けれど、いつからか世の中の腐敗を悟ってしまったんだ。そんなウォードにとってジャコビーの純粋な正義は忌々しくもあり、その純粋さが自分の足を引っ張る気すらしている。けれども本当はジャコビーの純粋さこそが、邪悪な世界で生き延びる唯一の術なのにね」。
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一方、「初めての日本をすごく楽しんでいるよ」と微笑む“来日新人”、ジョエルは、物語の中でも新人の立場にある。ジャコビーはオーク史上初めて警官になったばかりだ。
「ジャコビーの願いは、自分を世の中に受け入れてもらうこと。それには信頼し合うことが必要だと考えていて、だから彼は何でも信頼して素直に聞き入れてしまう。誰かが何気なく放った一言さえもね。僕ら全員が彼のようであれば、世界は変わるんじゃないかな」。
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そんなウォードとジャコビーが、大きな戦いの渦に巻き込まれていく。ダイナミックで壮大な展開だが、同時に身近な手触りもあるのが面白い。「現実の問題を語りながら作品世界を作り上げられるのが、SFの長所」とウィルが説明する。「普通の映画では語りがたい部分も、ファンタジーでコーティングしてね。『ブライト』の世界はエルフが頂点、オークが底辺、人間がその中間にいて、ジャコビーは警官仲間からいじめに遭っている。実はフィラデルフィアにいた17歳の頃、僕も彼みたいな思いをしたことがあった。僕が演じたのはジャコビーではないけれど、そのときの経験は作品世界を生きる上で活かされているかもしれない。現実を語る物語だからこそ、そういったアプローチもできたんだ」。
「いまのウィルはいつも僕をいじめているけどね。カメラの前以外で(笑)。それも役作りになっているだろう?」と冗談を言うジョエルも、「現代のアメリカには人種差別がある」と話す表情は真剣だ。「そして、差別は悪いことだと認識され、隠されている。『ブライト』の世界ではオークがあまりにも普通に嫌われていて、嫌いだと言っていいことにすらなっているから前時代的ではあるかもしれない。でも、差別があるのは同じだよ」。
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エンターテインメントの中に、メッセージを込める。数多くのヒット作を放ってきたウィルも、監督や脚本家としても活躍するジョエルも、それを成してきた。「僕の役目は、人々の人生をよりよくすること」とウィルが断言する。「その考えが根幹にあるから、語る物語にもそれを求めるし、1日25~30回は自分に問い掛ける。これによって人々の人生はよりよくなるのだろうか? とね。朝を迎えてベッドから起きるときも。自分や周りの人たちの人生をよりよくするための何かを、世界に向けて発信したいんだ」。
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ウィルの言葉を受け、「僕はもっと身勝手だから、自分の人生をよりよくする方法を考えるだけ」と笑うジョエルだが、もちろん冗談。「4~5か月かけ、家を離れてまで作品に携わるのは、大切なことを伝えたいから、または娯楽を提供したいから。僕にとって監督すること、脚本を書くこと、演じることはすべて同じ意味を持つ。物語を伝えたいんだ。新しいものを生み出すのは聖なる行為であり、そうできる立場を真摯に受け止めて自分にプレッシャーもかけている。楽しんでやっているよ」。
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そして今回、2人が選んだのがNetflixで配信される映画の製作。記者会見ではプロデューサーのエリック・ニューマンが「黒澤明が大好きで全ての作品を見ているが、どれも映画館では観ていない。けれど大好きなことに変わりはない。テレビ画面で観ても映画への愛は損なわれないと思う」と持論を述べていたが、2人の意見は? 「彼の話を聞いて、面白いなと思ったんだ」と、ウィルが頷く。「だって、クラシック映画を映画館で観る機会はほとんどないだろう? でも、僕は『戦場にかける橋』も『カサブランカ』も『北北西に進路を取れ』も大好きだ。映画館で観た方がいいのかもしれないけど、映画館で観たことがなくても大好きだし、大切な映画だと思っている。シェイクスピア作品だって、大画面で観ることはあまりないよね」。
ジョエルが続ける。「僕の子ども時代は80年代で、アーノルド・シュワルツェネッガーもシルヴェスター・スタローンもみんな頭を蹴られたりしていた(笑)。インディ・ジョーンズもね。そんな彼らの姿を僕は映画館以外でも目にしていたし、70年代の素晴らしい映画はVHSでむさぼるように観た。それが僕の原点になっているんだ。最も大事なのはストーリー。フォーマットは一番の問題ではないと思う」。
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