ファティ・アキンは久しぶりのカンヌですね。2007年に『そして、私たちは愛に帰る』が脚本賞を受賞して以来なので、10年振りになるのかな。過去10年、世界で最もドライブする映画脚本を手掛けている存在はアスカー・ファルハディとファティ・アキンの2人だと僕は思っているのだけど、今作『In the Fade』はどうでしょう。主演はダイアン・クルーガー。
『フランシス・ハ』(2012)で我々の心を鷲づかみにした現代アメリカン・インディーの雄、ノア・バームバック監督の新作『The Meyerowitz Stories (New and Selected)』は、仲違いしている家族が久しぶりに再会する物語とのこと。主演がアダム・サンドラー、ベン・スティーラー、エマ・トンプソン、ダスティン・ホフマン。すごい! そしてこれら超ビッグネームに続いて、昨年のTIFFコンペ作『浮き草たち』で来日してくれたグレース・ヴァン・パタン嬢(写真)の名が! 会えるかなあ。会えないだろうなあ。
フランスのロバン・カンピヨ監督はカンヌのコンペは初登場。もっとも、脚本家としてはローラン・カンテ監督と組んだ『パリ20区、僕たちのクラス』でカンヌを制しています(2008年のパルムドール)。2004年に監督第1作『Les Revenants(They came back)』を手掛け、これは死者が大量に蘇ってしまい、もとの家族とうまく折り合えるのかという難しい事態を描いた、ホラーではないドラマでした。前作の『Eastern Boys』(2013)はベネチア映画祭のオリゾンティ部門で受賞し、今作『120 Beats Per Minutes』が監督3本目です。若者たちが活動家になる過程を描く内容とのことで、どのようなタッチの作品になっているのか、カンピヨ監督の力量が楽しみです。
驚異の製作ペースが続くホン・サンス監督、またまたカンヌのコンペ入りです。なんと言っても、前作『On the Beach at Night Alone』が2月のベルリン映画祭に出品されて主演女優賞を受賞したばかりなのに、早くも次作が同年のカンヌのコンペに入ったどころか、さらに次の作品『Claire’s Camera』も今年のカンヌの特別上映部門に入っている! つまり、同年にベルリンに1本、カンヌに2本! こんなこと、アジア初はもちろん、世界初なんじゃないだろうか?
コンペの『The Day After』は、ベルリンの作品に続いてキム・ミニちゃん(失礼)が主演で、公私の垣根を超越した確信犯的映画作りが続くのかどうか、興味をそそるところです。まあ、ゴシップ的な関心は置いておくとして、ホン・サンス監督の世界にまたまた浸れることが単純に楽しみです。
ギリシャ期待の若き異才、ヨルゴス・ランティモス監督は前作『ロブスター』(2015)に続き2度目のカンヌコンペです。新作『The Killing of a Sacred Deer』は、崩壊した家庭を立て直そうとする青年の話、なのかな? エビの次は鹿か…。人を喰った作風のランティモス監督なので、見てみないと全く中身は想像できないのだけど、それだけに期待も高まります。主演にニコール・キッドマン、アリシア・シルバーストーン(!)、コリン・ファレル。こちらも豪華ですな。
ウクライナのセルゲイ・ロズニツァ監督はアート純度の高い作品を作る人で、残念ながら日本の商業公開作はまだありませんが、カンヌの常連監督のひとりです。ドキュメンタリーをたくさん手掛けた後に、初フィクション長編『My Joy』(2010)と2本目の『In the Fog』(2012)が続けてコンペ入りしています。スクリーン映えする雄大な自然の映像が印象に残る作家で、5年振りとなる長編に期待が高まります。
イギリスのリン・ラムジー監督もカンヌとの縁が長い監督ですが、何と言っても『少年は残酷な弓を射る』(2011)の印象が強烈ですね。あれは思い出すのも辛い内容でしたが、監督の確かな力量を証明する作品でもありました。新作『You Were Never Really Here』は、退役軍人が売春組織から少女を救おうとして泥沼にはまる、という物語のようで、今回もヘヴィーなリアリズムを覚悟した方がよさそうです。主演はホアキン・フェニックス。早くも主演男優賞を予感してしまいます。