前回の「イマ旬!」でもお伝えしたが、1月中盤から2月になると映画の現場に携わる人たちによって選出される映画賞が増える。先日立て続けにPGA(全米プロデューサー組合)賞、英国アカデミー賞のノミネーションが発表された。ロサンゼルス現地時間1月8日(日)に開催されたゴールデン・グローブ賞も前哨戦と言われているが、投票する会員たちは外国人記者ということで英国アカデミーや全米プロデューサー組合のメンバーとダブることはない。逆に言うと、PGAと英国アカデミーとアカデミー賞を選ぶ映画芸術科学アカデミーのすべてに属している人たちも少なくないわけだ。これを考えると、PGA賞や英国アカデミー賞、あるいはこれから行われるSAG(全米映画俳優組合)賞がどれだけアカデミー賞の結果と似てくるかの説明がつく。前回のお約束通り、今回はアカデミー賞でノミネートされそうな3本の作品についてご紹介しよう。『ラ・ラ・ランド』【あらすじ】ロサンゼルスで夢を追いかける男女の甘酸っぱい恋物語を描いたミュージカル。【アカデミー賞候補本命度】ゴールデン・グローブで計7部門を受賞したほか世界中の映画賞を席巻している作品。とにかくミュージカルが嫌いな人をも虜にしてしまうスゴイ作品でノミネーションはもちろんのこと、ライバル『ムーンライト』、あるいは『マンチェスター・バイ・ザ・シー』を退けられれば作品賞も夢ではない。【注目点:とにかくオールマイティーな作品】アカデミー賞は作品賞においてはミュージカルに冷たいという過去もあるが監督賞は必至、音楽部門のアカデミー賞も総なめ、ひょっとすると主演男女優賞、もしかすると作品賞も受賞するかもと言われており、ノミネーションの数はアカデミー史上最高となる可能性も!?『ムーンライト』【あらすじ】マイアミがドラッグにあふれかえり荒れていた時代を舞台に、主人公の黒人少年が試練・自己発見・恋愛を通して成長していく様を追ったドラマ。【アカデミー賞候補本命度】いかにもアカデミーが好みそうな作品。このところアカデミー賞で問題になっているdiversity(人種の多様性)の欠如を補う意味でもノミネーションは確実、作品賞においての本命でもある。製作総指揮にブラッド・ピットが名を連ねており、彼がどれほどの根回しをするかも受賞を左右するのでは。【注目点:好きな映画に投票するか受賞すべき映画に投票するか】まさに表題とおりで、アカデミー会員が本当に自分の楽しんだ好きな映画に投票するとしたら、きっと『ムーンライト』は、ぶが悪いのではと思う。(なんといっても題材が重い!)だが、とにかく人種の多様性が重視されているアカデミー内でどれだけの人が映画の娯楽性ではなく政治的な見地で投票するかで結果が分かれるのでは。『ヒドゥン・フィギュア(原題)/Hidden Figures』【あらすじ】1960年代のNASAを舞台にした実話の映画化。ただでさえ男性優位だった宇宙開発の職場で3人の若い黒人女性たちが差別と偏見の壁を破って、月着陸プログラムをはじめNASAの発展に貢献していく姿をハツラツと描いた元気の出るストーリー。【アカデミー賞候補本命度】作品賞受賞は難しいと思うがノミネーションはほぼ確実と筆者的には希望的観測を持っている。黒人市民による暴動や人種偏見を打ち出しそうな次期大統領を目の前に暗くなりがちなご時世を元気に歩かせてくれる作品で、その証拠に先日の全米興行収入では『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』から首位を奪うという快挙を達成。こういう映画にこそ賞を取ってほしい。【注目点:アカデミー会員が、元気になる映画にどれだけの価値を見出すか】アカデミーに“学術団体”などという意味合いがなければ、きっと本作や『ラ・ラ・ランド』がオスカー像を根こそぎ受賞していくと思うのだが、残念ながら往往にして「楽しい」映画や「元気の出る」作品がアカデミー賞を取ることは少ない。とにかく暗いニュースが多かったここ最近に免じてアカデミー賞には楽しく元気になる作品を選んでほしい。次回の「現地目線!第89回アカデミー賞レースのゆくえ」では「ノミネーションで必ずきそうな俳優 ~女優編~」をご紹介。お楽しみに。(text:Akemi K. Tosto)