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【インタビュー】鮨職人・中澤圭二 築地への愛、豊洲移転の不安を語る「築地がどれだけすごかったか」

シネマカフェでは、現在ハワイにて鮨職人としての挑戦を続ける中澤さんに、帰国のタイミングでインタビューを実施。『TSUKIJI WONDERLAND』が描き出す築地の魅力について語ってもらった。

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『TSUKIJI WONDERLAND』 - (C) 2016松竹
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  • 鮨職人・中澤圭二
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劇中に登場する、文化人類学者であり、「築地」の著者であるテオドル・ベスターは、築地で働く人々の姿を、“old-fashion”な労働倫理に溢れていると表現する。築地市場で働いたことがない観客にとっては、そこで働く人々の仕事は、まるで別世界のことのように思えるかもしれないが、築地市場の人たちの仕事に対するまっすぐな姿勢と、そこから発せられる真摯な言葉は、観るものはっとさせるほど普遍的な“働くことの美しさ”に溢れている。「極端に言ったら、私は寿司しか知らないんですよ。勉強嫌いだから寿司屋になったんです。築地にはそういう人いっぱいいますよ。だから、穴子だけは誰にも負けないように頑張ろう、エビだけは誰にも負けないよう頑張ろうって、そういう危機感が人をプロフェッショナルにするんです」。

職人によって握られる一つの寿司に至るまでのドラマが描かれる本作だが、同時にファーストフード化する食に対する危機感も語られる。食に向き合い続けてきた中澤氏は、食の本当の意味が失われつつある東京への危惧を語る。「多分東京っていうところは戦場なんですよ。みんな戦っていて、余裕がない。だから、お腹はとりあえず満たすだけで、仕事をこなさないといけない。食というものを楽しんだり、そういう余裕が一番ないのが東京かもしれない。でも、お医者さんに行くより、食っていうのは体を治してくれるんです。おいしいものを食べて幸せを感じたときに、明日も頑張ろうという気持ちにさせてくれるっていうのが食の良さで、満腹感にするだけじゃなくて、その幸福感が明日の原動力になる」。

自身の著書「鮨屋の人間力」の中で、人前に晒され、生身のコミュニケーションを通した鮨職人の仕事を「さらし」と表現する中澤氏だが、映画を通して感じるのは、鮨職人に限らず、築地市場で働くすべての人が「さらし」の仕事をしているということだ。コンビニやスーパー、ファミレスに行けば、それなりの味の料理を簡単に口にすることができるようになってしまった私たちは、本作を通して、人間的な営みとしての食について改めて考えざるをえないだろう。「料理ができるまでの行程で、魚の価値や、丁寧に扱うこと、感謝すること、そういうことを築地は教えてくれる場所かな。やっぱり寒いときに手を真っ赤にしている魚屋さんの姿を見たら、背筋が伸びるじゃないですか。やっぱりそれが触れ合い、ライブ感ですよ。それがなかったらつまらない」。

移転先の豊洲についてのニュースが現在も頻繁に取りざたされているが、中澤氏はそこでの“システム化”への懸念を口にする。「ちょっと豊洲は心配だね。一見清潔で、温度管理とか、冷蔵庫みたいに便利なんだろうけど、完全にシステム化がされてしまうのが怖い。多分、あと5年もしたら、築地で行われていたことが信じられないと言われてしまうような時代が来る。でも、この現代にそれを当たり前にやっていた築地がどれだけすごかったか。それが5年後10年後にもっともっとわかってくる、非常に価値のある貴重な映像だと思います」。

『TSUKIJI WONDERLAND(築地ワンダーランド)』というタイトル通り、築地市場という“不思議の国”を体験することができる本作。「ここにいる人は妄想癖があるんです」と劇中で語られるように、築地市場で働く人々は、自らの仕事の先にいる、その魚を口にする誰かのことを思いながら働いている。そんな“Wonder”に溢れたこの場所は、日々の仕事に追われる私たちにとって、まさに“Wonderland”なのかもしれない。「日本人の粋っていうのかな。やせ我慢もあるし、築地市場らしく、築地の魚屋らしく、っていう顔をみんなしてるんですよ。貧弱ではないんです。それがあの空気に入ったらそういう風になるんですよ。それが築地の凄さです」。築地市場で働く人々の眩しい姿を、本作を通して感じてみてほしい。
《シネマカフェ編集部》

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