名作『男と女』から50年。名匠クロード・ルルーシュが、もうひとつの恋愛映画の傑作を誕生させました。運命的な出会いを経験した在インド・フランス大使夫人アンナと、映画音楽家アントワーヌが奏でる大人の男女の恋愛模様を描く新作『アンナとアントワーヌ 愛の前奏曲』です。共にパートナーがいながらも、出会ってしまったふたり。アンナが、とある理由でニューデリー~ムンバイ~ケーララへの2日間の列車旅行に出ることを知ったアントワーヌが、ともにインドを旅するところから物語は大きく動き出します。アンナが旅する理由とは、夫の間に子どもができず悩んでいたため、聖者に会いたいとインド南部への巡礼を望んでいたから。アントワーヌも原因不明の頭痛に悩んでいたことから、彼女に同行することになったのです。物語の鍵を握っているのが、抱擁によって世界の人々を癒し続けているインドの聖者シュリー・マーター・アムリターナンダマイー・デーヴィ。実は、本作に特別出演している“抱きしめる聖者”が7月18日から20日まで、来日していました。そこで、“アンマ(お母さん)”と世界中の人々に慕われている彼女に会いに行ってきました。1953年、南インドの貧しい漁村に産まれたアンマは、幼い頃、周囲にいる貧しい人々の苦しみを目の当たりにし、思わず隣人たちを抱きしめたそう。そこから、自然に人々を抱擁する“ダルシャン”という行為が始まりました。彼女の抱擁を求めインドを訪れる人は多数。45年間にわたって世界中を訪れ、延べ3,600万人以上の人を抱きしめてきました。国内外で国際的災害支援・自立支援活動を展開する慈善活動家としても知られています。劇中、アンナとアントワーヌがダルシャンを受けるシーンは、本作のハイライト。そこで、私も体験してきました。実は9年ぶり2回目のダルシャン。来日は27年目26回目というアンマが2007年に来日した際、取材に伺ったのです。その時と全く変わらない、あたたかい笑顔で迎えられ、ぎゅっと抱きしめられ、まるで母親が幼子の不安を取り去るかのようにあやされます。ただそれだけですが、大地に抱かれるような安心感と、耳元で囁かれる「愛しい娘」という快い響きは、心にじんわりしみわたるよう。あっという間の出来事だった前回に比べ、落ち着いていられた今回でしたが、肉体的接触が少ない文化の中で暮らす私には、今回もとても親密で特別な経験でした。世界を抱きしめ続けるというシンプルな行為。だからこそ、アンマの中にある慈悲深さを実感できるのかもしれません。肉体的接触は身体の痛みを軽減するという研究もあるだけに、抱きしめられることで軽くなる心の痛みもあるはず。見ず知らずの人を抱きしめ続けるのは時に苦しくもあるでしょう。それでもダルシャンを続けるアンマに、直接話を伺う貴重な機会をいただいたので、全文をご紹介します。そこには、価値観の違う者たちがいがみ合うことなく、共存するための大いなるヒントが。ご興味がある方はぜひ。