自分が実際に旅をしていなくても、まるでその街にいてその街の何気ない日常を目撃させてくれるような──素晴らしいストリート写真はそんな不思議な力を持っています。ドキュメンタリー映画『ヴィヴィアン・マイヤーを探して』のヴィヴィアンはまさにその“素晴らしい”ストリート写真家のひとり。ただ、少し変わっているのは、彼女は生前、ストリート写真家として活躍していたわけではなく、死後、彼女の私物がある理由でオークションにかけられ、その中にあったネガをひとりの青年が手にしたことから写真家ヴィヴィアン・マイヤーが世間に知られるようになったことです。そのきっかけは青年ジョン・マルーフ。彼は彼女が遺した大量のネガを落札し、現像し、彼女のブログを作りそこに写真を掲載。そして、このドキュメンタリー映画を作りました。多くのドキュメンタリーは、ある人物に密着してその人の人生を追いかけたり、到底自分では行けないような大自然を見せてくれたり、ときには真実を明らかにしたり…。そのなかでストリート写真を題材にした最近のドキュメンタリーものと言えば、『ビル・カニンガム&ニューヨーク』や『アドバンスト・スタイル そのファッションが、人生』などがありますが、前者は有名なストリート写真家、後者は年をとっても自分らしくファッションを楽しんでいる60歳以上女性たち。彼らのニューヨークでの生活を描いたものでした。『ヴィヴィアン・マイヤーを探して』がそれらと違うのは、彼女が撮った15万枚の写真からそれを撮った本人=ヴィヴィアンがどんな人物だったのか、写真をヒントにヴィヴィアン・マイヤーの人物像、人生を探していくことです。彼女はいったい何者なのか知りたくて、気づくとのめり込んで見入ってしまう。彼女の撮った写真が映し出されるたびに、そこに写っている被写体以上に、彼女はその瞬間、何に刺激されシャッターを切ったのか…を考えてしまう。この映画を観たあとは、きっと街の景色が違って見えるはずです。(text:Rie Shintani)