ソフトクリーム、コーラ。猫と一緒に食べた味気ない食事。いつでもどこでも食べられる、ありふれた物でも、「誰と、どんな気持ちで食べたか」で、それはとてつもなく味わい深い思い出、記憶になっていく――。今回はそんな「おいしい映画」、『ヴィンセントが教えてくれたこと』をご紹介します。ギャンブル好きで人嫌いのジジイ、ヴィンセント(ビル・マーレイ)が住む家の隣に、シングルマザーのマギー(メリッサ・マッカーシー)と息子のオリバー(ジェイデン・リーベラー)が引っ越してくる。ひょんなことからオリバーの“シッター”を引き受けることになったヴィンセントは、破天荒な独自のスタイルで彼の世話を焼くことに。小学生のオリバーを平気で競馬場に連れて行っては馬券の買い方を教え、行きつけのバーでは注文の仕方をレクチャー。そしてガレージで酒を飲みながらいじめっこの撃退法を教えるのです。そんなハチャメチャなヴィンセントも、オリバーとは不思議と馬が合う様子。そしてオリバーも、偏屈オヤジとまわりから言われるヴィンセントと過ごす中で、彼の裏の顔を知っていきます。妻を愛する姿、妊婦のストリッパーのダカ(ナオミ・ワッツ)を気づかう姿、自分の夕食よりも愛猫の食事を優先する姿など…。誰からも理解されずに生きてきたヴィンセントの本当の姿を、そばにいたからこそ見えたオリバーは、学校の発表会で紹介することを決めるのですが…。おじいちゃんと孫ほど年の離れた2人の絆が強くなる瞬間、瞬間に登場する愛らしい食べ物。それを見るたび、思い出すだびに、二人の友情を羨ましく思い、そして温かな気持ちになります。食べ物、食事に関わることって、人の本当の姿が一番出やすいのかもしれません。そう思ったら、人を受け止める、受け入れる“味覚”を、私達も意識していかなければならないのかもしれませんね。