ファッションは自己表現。だからこそ、ファッションを通して見えてくる人間性というものがあります。例えば、自分をどう見せるかに関心があるか、ないか。おしゃれが好きか、そうではないか。そんなことに始まって、どんなスタイル、何色が好きなのか、どんなライフスタイルの人なのかなど、自分が思っている以上の情報を他者に与えているものです。自分の好みかどうかはさて置いて、人が似合った服を着ているのを見るのは心地よいもの。「この人、人生を楽しんでいるな」と思えたら、こちらだってワクワクしてくるものです。ドキュメンタリー映画『アドバンスト・スタイル そのファッションが、人生』には、まさにそんな気分にさせてくれる女性ばかりが登場。いずれも、NYのストリートを闊歩する60歳以上のマダム達。通常、ファッション業界では、若い女性たちばかりがもてはやされますが、本作の主役はシニア層です。人生を映し出した個性的すぎるファッションは、そもそも2008年にスタートしたブログ「Advanced style」のスナップとして紹介され話題に。その後、写真集となり、日本で翻訳本も登場。今年2月には東京で写真展が開催され、注目を集めました。彼女たちの、彼女たちによる、彼女たちだけのファッションが話題になっているのは、そのクリエイティビティとイマジネーションたっぷりのスタイルのせいだけではありません。そこに、彼女たちの人生や信念が色濃く映し出されているから。映画だって、単にファッションの話だけしているわけではありません。見えてくるのは、毎日、おしゃれをし続ける理由、心意気、そして生き様。人生哲学さえも垣間見えてくるのです。どんなことであっても、何かにこだわりを持つ人を注意深く観察し、話を聞いてみると、裏にはドラマがあるものです。ホロコーストを生き抜いた両親が移住したイスラエルで生まれたジポラ。40歳でパーキンソン病を発症した夫の代わりに一家を支えるためにハースト社に勤めたジョイス。ほとんど視覚を失ってしまった元ダンサーのジャッキーら、その人生は決して楽ばかりではないけれど、酸いも甘いも経験した彼女たちだからこそ、客観的に自分の女の部分を認め、若づくりするのではなく、自分らしい魅力的なおしゃれを完成させているのです。それにしても、この映画が人を幸せにするのは、思いきり好きなファッションを楽しめるその場所が、自由で平和だということだからかもしれません。自分の意に沿わない格好をさせられたり、着る物を制限されたりすることもなく、おしゃれに関心を寄せる気持ちの余裕を持てるということも平和の証明。歳を重ね、彼女たちぐらいの年齢になったとき、自分の生きる国が平穏であり続けているか、おしゃれを楽しめる人が増えているか。そして何より、ここまで積極的におしゃれを、そして人生を楽しめるか。そうだったらいいな。そんな気分にさせてくれる、大先輩たちの物語なのです。