下馬評として話題にあがっていたのは、ソレンティーノの『YOUTH』であり、トッド・ヘインズの『CAROL』であり、ナンニ・モレッティの『My Mother』であり、ハンガリーの新人監督による『Son of Saul』であり、はたまたホウ・シャオシェンの『The Assassin』であったりしました。『Dheepan』が話題に上ることはなく、あったとしても、今までのオーディアール作品と比べていささか劣るのではないかという指摘や、あまりにもとってつけたようなエンディングに対する不満などであり、前向きな感想が交わされることはありませんでした。
2等賞であるグランプリは、ハンガリーの新人であるラズロ・ネメス監督の『Son of Saul』に与えられ、これは誰もが大納得の選出。監督1作目がコンペに入ったのも異例であるなら、それがグランプリを取ることもさらに異例。(というか、前例はあるのだろうか?)。ベラ・タールの助監督出身であり、フィルム撮影にこだわる映画作りをするネメス監督は、過去と未来の映画を繋ぐ希望の巨星であると断言します。
マッテオ・ガローネ監督『Tale of Tales』のファンタジー寓話も素敵だったし、ジョアキン・トリアー監督の『Louder Than Bombs』も好感度大、ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督『Sicario』の緊張感もさすがで、ギヨーム・ニクルー監督『Valley of Love』の2大スター競演も素晴らしく、やはりこれだけ見応えのある作品が揃うコンペティションは、世界中でカンヌだけだという思いを改めて強くします。
他部門に目を向けると、好調が続く南米勢から、これまた好調のコロンビアの作品がふたつ賞を取ったのが注目されます。『Land and Shades』は全部門にまたがる新人賞のカメラ・ドールを受賞し、『The Embrace of the Serpent』が「監督週間」の賞を受賞しています。コロンビアは政府の助成も上手く機能しているようで、数年前から国内の映画業界が元気である印象を受けます。去年はトウキョウのコンペにコロンビアの作品が入りましたが、チリやメキシコに並び、南米勢の中で今後も要注目国です。
「ある視点」では黒沢監督が『岸辺の旅』で監督賞を受賞しましたが、やはりかなりレベルの高いラインアップでありました。僕は全部を見ることはできなかったけれども、アピチャッポン監督新作『Cemetary of Splender』は絶賛されていますし、ルーマニアのポロンボイユ監督『The Treasure』(「ある才能賞」受賞)も快作、はたまたクロアチアの『High Sun』(「審査員賞」受賞)を今年のカンヌのベストと推す声もあり、そしてアイスランドの『RAMS』は、多くの観客の絶賛の声を反映するかのように、「ある視点」部門の作品賞を受賞しています。
「監督週間」も、今年は例年以上に豊作であったというのが大方の意見の一致するところで、それはアルノー・デプレシャン監督の新たな傑作『My Golden Days』を従えていたということも大きいですが、その他にも、フィリップ・ガレル監督の軽妙にして格調高い『In The Shadow Of Women』、今年のカンヌで最も笑いの量が多かったジャコ・ヴァン・ドルメル監督の至福の『The Brand New Testament』、シネフィル的注目度の高さが一番だったミゲル・ゴメス監督の6時間越え3部作『Arabian Nights』、そして部門の作品賞受賞に異を唱える人が誰もいない納得のトルコの『Mustang』など、いずれもコンペ部門に入っていてもおかしくなく、今年のカンヌ全体のレベルの高さを象徴したのが「監督週間」でした。
さて、ここ数年、アジア勢の影が少し薄い印象があったカンヌですが、今年はなかなか健闘したのではないかというのが僕の印象です。コンペでホウ・シャオシャンが監督賞を受賞し、あらためてその存在感を世界に見せつけたことを頂点に、ジャ・ジャンクー監督新作『Mountains May Depart』も監督特有のスケールの大きさを備え、欧米作品と真っ向から張り合う力を持っていたし、ヒロカズ・コレエダ監督『海街diary』は爽やかな好意で受け止められていました。本当はコンペに韓国映画に是非入ってもらいたいところなのだけれど(ホン・サンス監督新作に期待していたものの残念ながら出品ならず)、来年は是非「中韓日」のそろい踏みを期待したいところです。