「ゲームを思い切りやってやろうと思ってたんですよ、15年ぶりに本気で…」。15年におよぶ「NARUTO-ナルト-」の連載を終えていま、どんな毎日を過ごしているのかを尋ねると岸本斉史は苦笑を浮かべつつ、口を開いた。「でも、いまどきのゲームは凄すぎて付いていけないんです…。連載中も唯一『コール オブ デューティ』だけはやってたんですよ。シューティングゲームで、1ゲーム15分くらいで終わるので休憩時間とかに。でも連載を終えて、本気でやろうと思ったら、なぜか連載中よりも点数がどんどん落ちちゃって…(苦笑)。いまは朝起きて、何も考えずにコーヒー飲みながら漫画読んだり、昼間からビール片手に映画を観たり。そういえばこないだ、すごく久々に…子どもが幼稚園の時以来かな? キャッチボールしましたね」。何気なく口をついて出る言葉から、15年間、計700話におよぶ週刊連載を続けることのすさまじさが伝わってくる。「ただ長かったですね。『長いようであっという間』とかではなく、ひたすら長かった」という15年。どんな思いでペンを握り、原稿に向き合ってきたのか? どのようにしてあの忍の世界や魅力的なキャラクターたちは生まれたのか? ファンの間では劇中の里の長を意味する“影”という呼称にちなんで“岸影様”と崇められる、岸本さんの頭の中をちょっとだけ覗かせてもらったロングインタビュー<前編>!【※原作の結末に関するネタバレの記載、発言もありますのでご注意ください】主人公のナルトが戦争、そして和解を通じて成長していくさまが描かれるが、忍の国とその起源・歴史を含めた重層的な世界観、民話や伝承や宗教の引用やオマージュを巧みに取り込んだ設定。これだけの情報量を扱いつつ、週刊連載で作品を発表するというのは並大抵の苦労ではない。「週刊連載って、次回のネタをじっくりと考える時間すらないままに描き始めないといけないんですよ。物語が続く中で、エピソードをキッチリと締める回だったり、重要なポイントとなる回が出てくるんですが、そのアイディアも描きながらじゃないと思いつかないし、もし思いつかなくても、〆切りは毎週やって来る(苦笑)。だから、本来描きたい回に辿り着くまでに、『捨て回』というと言葉は悪いですが、“つなぎ”のような回も出てくるし、そうやって本当に面白いところに到達するまで粘り続けます。もちろん、そうしたつなぎの回も、面白くないと連載は打ち切りになるから質は保ち続けないといけないし、(文献などにあたってリサーチする)インプットの時間も必要です。面白いアイディアを思いついたら、それを最大限に面白く見せるための伏線やフリも入れて、そこに辿り着かせないといけないし…。よく『この面白いエピソードを何でもっと早くやらないんだ?』と言われるんですが(笑)、そこに行くまでの時間が必要なんです。苦しいですよ、週刊連載って。いま、少し離れて客観的に他の作品を読んでて『みんな、よくやれるな…』って思いますよ」。ナルトが忍の世界を飛び回る中で、様々な歴史や因縁、この世界の“秘密”が明かされていく、ある種の謎解きの楽しさが「NARUTO-ナルト-」の魅力のひとつだが、加えて700回におよぶ連載の中で次々と登場した個性的で、それぞれに想いや葛藤を抱えたキャラクターたちの存在も、読者の心を鷲掴みにした。どのようにしてキャラクターが生まれるのか? 岸本さんは「僕もいまだにキャラクターのことは分かんないんですよねぇ…(笑)」と首をひねる。「何となく生まれる…というか、最初にポッと(ビジュアルの)イメージが湧いて、そいつが最初にひと言、喋る言葉を与えると、徐々に話し始めるんですよね。特に他のキャラクターと絡ませることで、だいぶ動きが出てくるのかなぁ…? よく言う『キャラクターが動き出して、物語が進んでいく』というのは、物語を作る作家であれば誰しもその感覚があると思います。キャラクターって、こっちの言うことを聞かない時は全く聞かないんですよ(笑)。こちらの都合よくは動いてくれないし、それを簡単に動かせばウソになるし、ブレちゃう。話が進み、キャラクターに厚みが出てくればさらにいろんなことが複雑に絡み合って、素直に動いてくれない。ここまで連載が長くなったのは、そのせいもあると思います」。ものすごい数のキャラクターたちが所狭しとばかり動き回る。連載初期に登場したキャラクターたちの多くが中盤、後半と話が進んでも消えることなく活躍することもあって、新旧キャラクターが入り乱れ、「NARUTO-ナルト-」ほど、読者によるキャラクターの人気投票が面白い作品もなかなかない。生みの親である岸本さんにとって人気投票は?「僕としては、どうしてもナルトは特別なんですよ。自分自身を投影して、気持ちを乗せて描いてる部分も多いので。だから『なんでいつもカカシにばかり票が集まるんだ?』とちょっとシャクでしたね(笑)。あと、いろんなところでサクラのことを必死で描いてるのに、なぜかヒナタにばかり票が集まるのも『なんでだよ!』と(笑)。ただ、ナルトは特別として、その他のキャラクターはみんな同じ思いで大切に描いてるので、投票の結果に関してはなんでそうなるのかよく分からないんですよ。例えばネジが毎回、安定して上位にいることとか、なんでチョウジはなかなか上に来ないのか? とかね(笑)」。連載が進む中で、そうしたキャラクターの死を描かなくてはならないこともある。一方で禁術“穢土転生”によって、死んだはずの人物が再び現世に姿を現すことも…。「やはり、バトル漫画なので『死ぬ』ということから逃げずにしっかりと描いていこうとは決めていました。死ぬべき時は無理をせずにそうしようと。時には読者から『もしカカシを殺したら…』なんて手紙が来ることもありました。ただ『ペイン編』以降、重要なストーリー上の問題として、ナルトが敵を“自分と同じ人間”として捉えて、ただ殴って殺して決着をつけるのとは違うやり方を探すようになった。『分かり合える』と信じているナルトが単に相手を殺すことは出来ないので、そこで“穢土転生”という本来死んだはずの人間をゾンビのように復活させるというある種の荒行が出てきたんです。僕の中で穢土転生は『生き返る』のではなく、あくまで死んでいるキャラクターなんです」。死んでいく人間が“想い”を生きている者に託すからこそ、それぞれのキャラクターの死に重みが生まれる。例えば、終盤の「第四次忍界大戦」のさなか、先述の人気キャラのひとり、ネジが死を迎えるが、その描写は意外なほどあっさりしている。一方で残されたナルトたちはネジの存在を心に留めて戦い続ける。「死って意外なほど突然来るんですよ。それまで、例えば自来也の死のシーンとか、わりとねちっこく演出することもありましたが、ネジの時はそれをあえてやめました。死は突然だし、戦場の中で感傷に浸る余裕もない。いつ誰が死ぬか分からないという覚悟がないといけないし、丁寧に描き過ぎればウソくさくなる。でもナルトたち仲間のひとりひとりがネジを思い、何かを受け取る。そこでネジの思いを“鳥”に、十尾の尻尾を“檻”に見立てて、檻から飛び立っていくというシーンが描けたのはよかったなと思います」。≫【インタビュー後編に続く】
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