開催中の第67回カンヌ国際映画祭。終盤になり、強力作品が次々に上映されている。中でも「男優賞」の有力候補が、ベネット・ミラー監督の『FOXCATCHER』(原題)に主演したスティーブ・カレルだ。映画は1996年に実際に起きた、五輪金メダリストのレスリング選手殺人事件をもとにしたベネット・ミラー監督による心理ドラマで、チャニング・テイタムとマーク・ラファロがメダリスト兄弟を、犯人で統合失調症を患ったデュポン財閥の総帥ジョン・デュポンをスティーブ・カレルが演じている。中でも特殊メイクでデュポンになりきったカレルの怪演は大きな話題を呼び、カンヌだけではなく、早くもオスカー候補との呼び声もあがっている。『40歳の童貞男』などコメディ俳優として知られるカレルは、公式会見で「演技へのアプローチは、コメディを演じるときとまったく変わらない。だって映画の中の人物は、それが悲劇なのか喜劇なのか、ということに気づいていないんだから」と語った。監督のミラーは『カポーティ』でも作家トゥルーマン・カポーティになりきったフィリップ・シーモア・ホフマンにアカデミー賞「主演男優賞」をもたらしたが、記者からその共通点について聞かれると、2月に薬物中毒で亡くなったホフマンのことを思い出したのか、ミラーは一瞬絶句。涙を浮かべながら「フィリップを始めとして、僕を信じてついてきてくれた役者たちに、残りの人生、ずっと感謝し続けたい」と声をふりしぼると、マーク・ラファロも顔を覆って泣き出してしまい、隣にいたチャニング・テイタムが2人をいたわっていた。