続いて、11時半から、僕の今年のロッテルダムのハイライトのひとつ、オランダのJos de Putter(ヨス・デ・プッター)監督新作『See no Evil』へ。プッター監督は、オランダでは社会派ドキュメンタリーの第一人者として認知されているようだけれど、残念ながら日本ではほとんど紹介されていないはず。1作目の『What a Beautiful Day』(93)が、僕は生涯のベスト10に入れたいくらい好きで、いつかプッター監督のレトロスペクティブを日本で企画したいというのが僕の夢のひとつ。
プッター監督の素晴らしいところは、リアリズムとリリシズムを美しく融合させる技術にあって、処女作の『What a beautiful day』では父親の死去をテーマにしたリアルな「セルフ・ドキュメンタリー」でありつつ、表からは見えない演出を施した、極めて美しい映像詩として偉大なる映画の輝きを放っていた。
チンパンジーにカメラを向けた作品には優れたものが多くて、巨匠フレデリック・ワイズマンも撮っているし、数年前の東京国際映画祭でも上映したジェームズ・マーシュ監督の『プロジェクト・ニム』など、記憶に新しいものも多い。今回のプッター監督の『See no Evil』もその系譜に連なるもので、最初は人間に近い仕草を見せるチンパンジーの愛らしさを捉えて観客の共感を呼び、徐々に過去の「実験」の被害者として余生を過ごすチンパンジーたちのつらい側面が描かれ、人間たる観客の胸を痛める。
本日最後は、22時から『Something Must Break』というスウェーデン映画。これもコンペ部門。男性のゲイのカップルが経験する、恋人関係の構築の難しさを巡る繊細な愛の物語。ストレートだろうがゲイだろうが、そして本作の10代の青年だろうが、『Happily Ever After』の40代の女性だろうが、恋愛とはかくも難しいのだ…。