現在公開中の『人類資金』を観てきました。とはいえ、実は今日観たのは2回目でした。前のブログで書いたKИHO(キノ)の椎井プロデューサーからご招待を受けて、以前に試写で1回拝見させてもらっていました。その時は詳しい感想をお伝えできず、ただ親指を上げて「最高です」と言って人の波に押されて試写室を後にしてしまったので、この場を借りての感想です。試写で観た時も思いましたが、今日また映画館で観て思ったのは「やっぱりこの映画は映画としての傑作だ」ということでした。「金融」という映画として極めて扱いにくい題材を基にしながらも、サスペンス感溢れるストーリーがグローバルな様相で展開してさらにそこに様々な人間ドラマが埋まっているという本当に手に汗握って、心には熱いものがこみ上げる作品でした。そして、何よりも俳優陣の演技が素晴らしかった!です。佐藤浩市さん、香取慎吾さん、観月ありささん、豊川悦司さん、岸部一徳さん、オダギリジョーさん、仲代達矢さんetcといった阪本順治組オールスターズとも言える面々なのですが、皆さん本当に素晴らしかったです。阪本監督がかつて自分の演出を褒められるよりも、自分の映画に出ている役者の演技を褒められる方が嬉しいと言っていたのを今更ながらに思い知らされました。さらには、ユ・ジテ、ビンセント・ギャロといった海外勢も加わって今自分が観ているのは日本映画なのかどうか?もわからなくなってしまうくらいでした。『人類資金』は戦後最大の都市伝説とも言われている「M資金」(GHQが戦後日本占領下で押収した財産を元に運用されていると言われている秘密資金)をベースにしていて、それだけでも相当に面白いのですがやっぱりそこに描かれているのは人間の魂ともいえる目には見えないものでした。僕がかつて就職活動をするときに唯一就職を考えなかった(その業界で仕事をする自分の姿が思い浮かばなかった)のが、実は金融業界でした。社会に出て会社に入ってお金をもらう。その媒介として何を扱うかが仕事を何にするか?ということだと思うのですが、それがお金を扱ってお金をもらうというのだけはどうしても馴染めなかったんですね。今ではもちろんそんなに単純ではないと思えているのですが当時の僕にはそれってなんか「目に見えない」と思ったんですね。だから自分が働くときには何か目に見えるものを媒介にして働きたいと思ったんです。そして、自分がずっと目にしてきた映画を仕事にしようと思って今こうして幸運にも映画の仕事が出来ている次第です。でも、今回『人類資金』を観て思ったのは、映画もやっぱり目に見えないんだということでした。大事なことや言いたいことを台詞にして言わせるということもありますがやはり映画として素晴らしいのはそういったことはせずに画の美しさや光と影、音のリズムや強弱、台詞の聞かせ方、森羅万象の運などで大事なこと・伝えたいことを映画というダイナミズムの中で浮かび上がらせていくということなのだと思います。映画は画として目には映っているものだけども、そこに沈殿しているものはやはり目には見えないんですね。今回『人類資金』を観てそんなことを思いました。『人類資金』は本当に素晴らしい作品ですので、これは貴重な映画の資産といってもいいと思います。映画を観て、目に見えない何かを感じ取ってみてください。【2013.11.1】