気がついてみればすっかり秋。どうりで食がすすむわけです。1年中、美味しいものがいただける日本にあっても、この季節は特別。あれも食べたい、これも食べたいと思うのですが、女性としては、ウエストのサイズも気になるわけで、食欲のままに食べているわけにもいかず。ということで、映画で美味しい気分に浸るのはいかがでしょう。すでに公開されていて、各方面で評判となっている『地中海式 人生のレシピ』には、何とも美味しそうな料理がたくさん登場しています。それもそのはず、スペインを舞台にした本作では、同国の三ツ星レストラン唯一の女性シェフ「サン・パウ」のカルメン・ルスカイェーダや、「エル・ブリ」のフェラン・アドリアを初め、バルセロナのスターシェフたちが全面協力。料理界で注目を集める“地中海派”が威信をかけて、目を楽しませてくれているのです。そんな料理も見どころですが、実は本作が面白いポイントはそのほかにも。人生を料理に見立て、人生を美味しくする秘訣が描かれているのです。主人公は地中海に面したバルセロナの小さな港町で、ケネディ暗殺の日に生まれたソフィア。海岸近くで食堂を営む両親のもと、子どものころから店を手伝い、料理上手で評判な女性に育ちます。そんな彼女の夢はいつか一流のシェフになること。そんな彼女の前に、2人の違うタイプの男性が2人現れます。幼なじみで散髪屋の息子で堅実なトニと、奔放で恋多きフランク。2人の間で揺れながらも、夢を貫くために自分を曲げないソフィアは、ある選択をするのですが…。ソフィアが奏でる料理は、いわば地中海料理。海の恵み、太陽の恵みをたっぷりと浴びた食材を使って、目にも舌にも嬉しい食を生み出していきます。そして、そんな彼女の人生も実に地中海式。実に奔放に、夢に、男性に対峙していくのです。面白いのは、そんな彼女を愛する2人の男も、常識にとらわれず、彼女を尊重していくところ。たいてい、男性は愛する女性を独占したがるものと相場は決まっているのですが、ここに登場するトニとフランクは、ソフィアの類い稀なる才能を伸ばし、そして彼女を愛し続けるために、意外な決断を下すのです。女性が才能に恵まれている場合、愛を育みながらそれを伸ばすためには、周囲の協力というものが不可欠。先日、映画『大統領の料理人』のモデルとなったダニエル・デルプシュさんとお会いしたとき、「フランスには女性三ツ星シェフが少ないですね、と言われることが多くて」とお怒りの御様子でした。それは、女性が一流シェフとなるためには、犠牲にするものが多く、「大抵の場合、家庭か子どもを持つことを諦めざるをえないの。その現実を考えると、いまいる女性三ツ星シェフの数を、少ないとは言えないはずなのに」とのこと。一番厳しい修業時代と、恋愛、結婚、出産の最盛期が重なってしまうことが、女性料理人にとっては、公私の両立のために最も大きな障害になるのだということ。それを知った後でこの作品を観ると、ソフィアが一流の料理人となるためには、トニとフランクの存在が不可欠だったことがよく分かります。“仕事か、プライベートか”ではなく、“仕事もプライベートも”。欲張ることを肯定してくれる地中海式の人生論は、「レシピにはこう書いているけれど、私はこうしてみたい」という冒険心があってこそ、人生も料理も自分らしく斬新で、そのうえ極上の美味になる可能性が増すことを教えてくれているのです。