アジア圏の映画祭で絶賛を浴びた台湾発の青春映画『あの頃、君を追いかけた』。本作で随所に見られる90年代のサブカルチャーが、80年代のアイドル文化や世相が盛り込まれた「あまちゃん」を彷彿とさせると、早くも話題になっているという。悪友たちとつるんで、くだらないイタズラで授業を妨害しては担任を困らせていた男子高校生・コートン。そこで担任教師は、優等生の女子生徒・シェンを監視役としてコートンの後ろの席に座らせる。口うるさいシェンをわずらわしく感じながらも、コートンは次第に彼女に惹かれていくのだが…。台湾の人気作家ギデンズ・コーが、自伝的小説を自ら映画化した本作。見どころの一つは、90年代前半という“少しだけ”懐かしいその時代背景だ。教室内でブームになっていたのは、日本の人気漫画「SLAM DUNK(スラム・ダンク)」や、アメリカNBA選手のトレーディングカードの収集、そして自室の壁にはジョイ・ウォン(『チャイニーズ・ゴースト・ストーリー』のヒロイン役)のポスターなど、セリフに登場する有名人の実名や固有名詞が、その時代の空気感を甦らせると同時に、いかに台湾に日本のサブカルチャーが浸透していたかがよく分かる。そして今、日本で一大ブームとなっているNHK連続ドラマ「あまちゃん」もまた、ヒロインの母親が80年代にアイドルを目指していた、という設定に伴って、当時のアイドルの名や懐かしい固有名詞が数多く登場しているのは、ご承知のとおり。70年生まれの脚本の宮藤官九郎は、自身が高校生だった頃のブームメントを巧みに取り入れているのだ。一方、本作のギデンズ監督は78年生まれで、宮藤さんのひと世代年下。監督の過ごした高校時代は90年代初頭ということになり、やはり自身の高校時代が色濃く反映されていることになる。「あまちゃん」が、「時をかける少女」や「君に胸キュン。」など、当時のヒット曲を登場人物に歌わせたり、BGMに使うなどして懐かしさを演出し、中高年層の視聴者のハートを掴んだのと同様に、本作は90年代当時の台湾のローカルヒット曲を、今回の映画のために出演者たちがカバーしたり、原曲がBGMとして流れるなど、台湾・香港の中年層の心をガッチリ捉えることに成功した。ギデンズ監督と宮藤さんの手法の共通点は、“懐かしさの演出”だけではない。脇役の一人一人にまで細かく与えられたキャラクター設定と、散りばめられた“小ネタ”の数の多さ、そして笑いのセンスなどは2人とも卓越したものがあり、宮藤さん脚本の『木更津キャッツアイ』などと同様、本作の登場人物たちも“青春をこじらせた”男女ばかり。両氏が日・台それぞれの若者層にも、中年層にも熱烈に支持されている由縁は、どうやらその辺りにありそうだ。“台湾のクドカン”とも言えるギデンズ監督は、本作以後、プロデュース作品が相次ぎ、待望の監督次回作も2015年の公開がすでに予定されている。『あの頃、君を追いかけた』は9月14日(土)より、新宿武蔵野館ほか全国にて順次公開。