「武士というのは難しいものだな」——。映画の中で東山紀之演じる主人公・朔之助がつぶやく。この映画がなぜこうまで美しいのかがこのセリフに凝縮されている。現代においてもある種の称賛を込めて“武士”や“侍”という言葉が人物を形容するのに頻繁に使われるが、映画『小川の辺』からは、武士という生き方の不条理、そしてその不条理がゆえの美しさがひしひしと伝わってくる。「人を許せる、命を賭けて許せるということ」。朔之助の奉公人・新蔵を演じた勝地涼は、この映画を通じて感じた武士というものをこう表現する。決してセリフが多くなく、感情を露わにすることもない。その中で彼は何を感じ、表現したのか——?