舞台の中心となっているのは、レバノンの首都、ベイルートの街角にある小さなエステサロン。不倫相手に振り回される30歳独身のオーナー、ラヤールをはじめ、婚約相手に打ち明けられない秘密を持つヘアスタイリスト・ニスリン、更年期を迎えた常連客のジャマルら、サロンに集う女性たちのドラマが展開していく。タイトルの“キャラメル”はレバノン女性御用達の脱毛アイテムであり、砂糖と水を煮詰めて作られたキャラメルが、女性の体を美へと導く物体に変化するオープニングが官能的。脱毛によって生じる万国共通の痛みを示しながら、少なくとも日本女性にとってはなじみのない方法で目を引く。それはあたかもこれから始まるストーリーを物語っているかのよう。ラヤールの不倫やニスリンの秘密、はたまたサロンのシャンプー係であるリマのぎこちない恋や向かいに住む老婦人の純情は、全女性の共感を得る普遍性を秘めながら、共感などという容易い言葉では片付けられない国や宗教の事情もビターに映し出していく。監督であり、ラヤールを演じているナディーン・ラバキーはレバノンに生まれた自分自身と向き合いながら、世代の異なる女性たちの悩みを愛情たっぷりに、ライトな味わいと真摯な眼差しのバランスを保ちながら描き上げている。“女性”の抑圧を求められるのと同時に、武器にすることも求められる状況が意味するものは何か? ささやかだけれども大きな意味を持つラストシーンが忘れがたい。