映画界を代表する巨匠フランシス・F・コッポラが正式監督作として『レインメーカー』以来10年ぶりに放つ意欲作。宗教学者ミルチャ・エリアーデの小説を軸に、肉体的に若返った老齢の言語学者がたどる数奇な運命が描かれる。舞台となっているのは、第二次世界大戦の足音が近づく1938年のルーマニア。年老いた言語学者・ドミニクが長年取り組んできた研究を全うできない人生に絶望する中、自らの手で人生を終わらせようとするところから物語は始まる。しかし、そんな彼を落雷が直撃。奇跡的に一命をとりとめたドミニクは、若返った肉体と頭脳を手に入れていたのだが…。まさにコッポラ流の知的ファンタジーといったところ。つれない天才が放ったもののように難解だが、そこには人生と人間という存在を真っ向から見つめた彼自身のあふれ出る思いがあり、時代のスリルと美しくも悲劇的な様相を湛えた映像世界からは映画作りに対する確かな愛が感じられる。そんな巨匠の思いに応えるかのように、名優ティム・ロスが孤独な主人公を手堅く熱演。彼の思い人を演じるアレクサンドラ・マリア・ララの美しさもコッポラ・ワールドに合っている。