『クリクリのいた夏』や『ピエロの赤い鼻』のジャン・ベッケル監督が手がけ、本国フランスでロングランヒットを記録した珠玉のヒューマンドラマ。成功に恵まれ、優雅な暮らしを送る画家と、家族への愛を胸に慎ましい生活を送る庭師が、美しい田園風景の中で静かな友情を育んでいく。ダニエル・オートゥイユ演じる画家の男が都会の暮らしに疲れ、故郷に戻って来るのが物語の始まり。荒れ果てた家の庭を手入れするために雇った庭師が、子供時代の同級生だったことから友情がよみがえってくる。とは言え、大人になった男ふたりの友情は、過ぎ去りし子供時代への思慕に終始するのではなく、全く異なる人生を歩んできたそれぞれが相手の思い出話を通して未知の世界を知り、友の歴史として受け入れていくといったところ。幸せな家庭を築くことが出来ず、美しいモデルたちとの関係が離婚を招いた画家と、地元で国鉄に就職し、退職後にようやく念願の庭師となった人生を決して回り道とは思わず、愛する妻と心穏やかに暮らす男。生き方も考え方も異なるふたりが、むせ返るような緑の中で、ゆったりと確かな絆を結んでいく。画家と庭師のかわいらしくシンプルな会話が物語の中心となっている本作だが、飄々とした魅力で庭師を演じたジャン=ピエール・ダルッサンの存在感が、単なる友情ドラマでもなければ、単なる会話劇でもない作品を生み出している。ダニエル・オートゥイユがこちらでも主演を張る『ぼくの大切なともだち』から、アメリカ映画『最高の人生の見つけ方』まで、老境男性を主人公にした映画が続く中、お薦めの1本だ。