『ラン・ローラ・ラン』のようなポップな映画や『es』のような日本でもヒットした映画を思い浮かべたいところだが、どうしても、いまだにドイツ映画と言うと、ヒトラーの時代のユダヤ人迫害が絡んだ作品など、重い映画を思い浮かべてしまう。別にそういった映画が嫌いなわけではない。字幕のない状態で2時間、全くわからないドイツ語を聞き続ける気力と気分の問題なのだ。いまの気力では眠る確率78パーセント。いまの気分では、どちらかというとアクション映画なのである。ポツダム広場にあるシネマコンプレックスに並ぶポスターを見ながら悩んでいた。「ハイル ヒットラー!(ヒトラー万歳)」の右手を上げたおなじみのポーズをした人たちの写真。内容は、かなり重そうである。しかし、いまのところドイツ製作の映画はこれ以外、見当たらない。「仕方ない、これを観るか!」と気合いを入れ、ドイツ語を浴びる決意を固め、窓口で6ユーロ(約900円)支払い、スクリーン番号を言った。窓口のやさしいおじさんと「次の時間でいい?」、「席はここで大丈夫?」、「ドイツ語だけど大丈夫?」などと、僕でもわかる簡単な英語のやりとりをした後、チケットを受け取った。最後に時計を指しながら、「間もなく始まるから急いでね」とも言われた。あれ? 30分くらい時間があるはずなんだよなぁと思いつつも「ダンケ(ありがとう)」と言って、スクリーン番号のところまで急ぎ足で向かった。50名程度の小さなミニシアターではすでに本編が始まろうとしていた。観客は僕以外に若いカップルが一組いるだけである。オープニングは地下鉄の車両の中、ストリートダンスのシーンから始まった。予想外のオープニング。ここから「ヒトラー」にどう繋がっていくのか。しかし、いつまで経っても「ヒトラー」の「ヒ」の字も出てこない。あれ? これ、ひょっとして…。ハリウッド映画…。どうやらスクリーン番号を間違えて言ってしまったようである。この映画は日本でも昨年、公開していたダンス映画だった。