それはかなり前のこと。とあるピアノ・ソナタをCDで聴いていたときのことです。部屋には静かに、でもときに激しく、音楽だけが流れていました。そして、その場には私一人だけしかいないはずなのに、あるメロディのところで、誰かが鼻歌を歌っているような不思議な音がかすかに耳に届き始めました。これはもしや心霊現象? と、どきどきする私。よく子供の頃にありましたよね、歌手○○のレコードに奇妙な声が入っている…とかいう話。もしかして、このCDもそのひとつなのか。そんなどきどきが、私と20世紀を代表する名ピアニスト、グレン・グールドとの出会いでした。