東京で働くバリバリのキャリアウーマン、30代。そして、病気のことを娘に話さないほど毅然としたその母親──。“一人でも生きていける女性”、“子に迷惑をかけずに生きる親”、格好いい形容詞ならいくらでも挙げられる。だが、それぞれに深い意味がこめられている生き方だ。松嶋菜々子演じる咲子と、宮本信子演じる咲子の母・龍子、それぞれの生き方が描かれているのが『眉山 -びざん-』だ。東京の旅行代理店で働いている咲子は、ある日母親が病と知らされて徳島に帰郷する。母一人、娘一人で暮らしてきた咲子はきっと徳島へ向かう道中で母を心配し、幼い頃の母との生活を思い出していたに違いない。母と娘の距離ってどのくらいあるのだろう。この作品では、死んだと言われていた父親が存在するという複雑な母子の微妙な距離も描かれているが、この咲子と龍子の関係を自分の人生と重ね合わせてしまう女性は多いはずだ。人は一人では生きていけないんだと思わせる母の恋愛は、咲子自身の恋愛と折り重なり、彼女が大切なものを見つけ成長していく様子は、観ていて胸がぎゅっと締めつけられてしまう。咲子の恋人役を演じているのは、『解夏』でもたくさんの涙を誘った大沢たかおだ。さらにクライマックスの阿波踊りの場面は圧巻。これだけでも観る価値があると思えるほど素晴らしく、盛大な演出に誰もが酔ってしまう。いままでぎゅっとされていた思いが、ぎゅぎゅぎゅぎゅぎゅうっと何倍にもなって込み上げてきて、奥のほうから温かいものが湧いてくる。最後は涙なしでは語れないものがあり、誰もが、観終わった後にすぐにでも母親に電話をしたいと思うだろう。私は母親をその徳島に連れて行きたいと思った。徳島の阿波踊りを見に…。