タバコにしてもジャンクフードにしても言えることだが、人は体に悪いモノをどうしようもなく好んでしまう生き物。しかも悪いモノと美味は背中合わせに存在するから質が悪い。何が言いたいのかと言うと、体に悪いと分かっていながらタバコを吸って病気になった人がいたとしたら、その人はタバコを悪だと非難できる立場か?ということ。確かにタバコは百害あって一利なしかもしれないが、吸うという選択をしたのは紛れもないその人で、この判断こそが『サンキュー・スモーキング』が言わんとしているテーマのひとつなのだ。主人公のタバコ業界を代表する凄腕PRマン(アーロン・エッカートがこれまたハマり役!)は善か悪かと問われれば、ほぼ悪に間違いない。しかし、そんなステレオタイプの倫理観がいつの間にか崩され悪がヒーローにすり替わってしまうシニカルさがこの作品の面白いところ。またアメリカ政府のスピン(情報操作)カルチャーという小難しくなりがちな論争をユーモアたっぷりに皮肉った知的コメディでもある。これが長編監督デビューとなるジェイソン・ライトマン曰く「タイトルに“スモーキング”という言葉が入っているけれど、これはタバコをテーマにした映画じゃない。タバコをめぐる狂騒を描いているんだ」と、喫煙シーンをひとつも盛り込まないという離れワザにも注目したい。