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提供:ポニーキャニオン
最新作『海街diary』が国内外で高く評価された是枝裕和監督が、同作のBlu-ray&DVD発売を前に、取材に応じた。1995年に初監督した『幻の光』から20年。誰の目にも輝かしいキャリアを積み上げた監督人生に映るが、当の本人は「まだまだ青いかな」と照れ笑いを見せる。
原作はマンガ大賞2013を受賞した吉田秋生の同名人気コミック。鎌倉を舞台に、両親に捨てられた三姉妹と、父親が残した母違いの四女が織りなす家族の物語が、綾瀬はるか、長澤まさみ、夏帆、広瀬すずという豪華なキャスティングで映像化され、是枝監督の脚本による映画オリジナルの美しい結末が心温まる余韻を残している。“家族”は、『奇跡』('11)、『そして父になる』('13)と近年、是枝作品がアングルを変えながら、描き続けるテーマだ。
「同じ家族を描いた作品でも『歩いても 歩いても』('08)は息子目線だった。それが自分の母親が亡くなり、その後僕自身が父親になったことで、『奇跡』から意図せず自然と父親目線になっていた。自分で言うのもヘンだけど『あっ、変わるんだな。面白いな』って興味深くて。特に家族のドラマは、作り手の変化がストレートに反映されますね。ただ、家族をテーマにしつつ、それぞれの作品が描きたいことはまったく違うものになっている」

子どもが世界と出会う『奇跡』、文字通り父性の本質を問うた『そして父になる』…。そして『海街diary』では、「舞台となる家が内包する“長い時間”を描きたかった」という。「そもそもタイトルが『鎌倉四姉妹物語』とかじゃなく、『海街diary』である理由を考えると、四姉妹が生まれる以前から、ずっと流れていた時間こそが主人公なんじゃないかと。僕自身、原作を読んでそこに一番惹かれたし、何としても映像で描けないかなと思った」
そんな“時の流れ”の象徴として、四姉妹を見守る梅の木が印象的に登場する。「今年も花が咲いて、実が生ったそうで、(ロケ地となった家屋の)ご家族が梅酒を作って送ってくださった。ご自宅にお邪魔し、お世話になりっぱなしなのに、本当に頭があがりません」と是枝監督。この梅の木にまつわる驚きの裏話が、Blu-ray&DVDの特典映像として収録されているので要チェック。是枝監督の作品づくりへの強いこだわりが、垣間見えるはずだ。
長編映画デビュー作にあたる『幻の光』(’95)を皮切りに、多くの作品が海外の映画祭で高く評価されてきた是枝監督。特にカンヌ国際映画祭との縁は深く、『海街diary』のコンペ部門出品は、『DISTANCE/ディスタンス』('01)、『誰も知らない』('04)、前作『そして父になる』('13)に続き2年ぶり4度目を数えた。『誰も知らない』に主演した当時14歳の柳楽優弥が、日本人初にして史上最年少の男優賞に輝いたことも、記憶に残る偉業である。
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現地に赴く機会が多いだけに、海外における日本映画の現状には敏感にならざるを得ない。「以前に比べると、ヨーロッパで一般上映される日本映画の数はどんどん減っていますね。幸いにも僕の作品は上映されていますが、それだけじゃ偏るし、僕の作品だけを見て『日本ってこうなんだ』って海外の人に思われると、僕も困っちゃう(笑)。日本を代表しているつもりもないし、本当はもっと日本映画を見てほしいというのが正直なところですね」
国際的な注目を集める是枝監督は、海外プレスから取材を受けることも多々あり、「この15年くらい変わらないことがある」と明かす。「それは社会や政治といったテーマが、日本映画に反映されていないという批判です。彼らはその点を物足りなく感じていて、確かに僕も理解はできる。この問題は常に自分自身で問いかけ続けているし、それを突破する映画を作らなければいけないと思っています」と次なる20年に向けた決意を静かに燃やす。
ちなみに自身の監督作品をBlu-rayやDVDで見直すことは「基本的にしない」のだとか。「完成品に手出しできないとわかっていても、見るとどうしても直したくなって(笑)。例えば、『このシーンは4コマ、編集がズレているな』とか思うもんね。細部が気になっているうちは、まだまだ青いかな(笑)」と是枝監督。ただ、原作に惚れこみ、映画化を熱望した『海街diary』は、「原作ファンなので見ます」と観客目線で何度も楽しむつもりだ。
text:Ryo Uchida
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映画『海街ダイアリー』
まぶしい光に包まれた夏の朝、鎌倉に住む三姉妹のもとに届いた父の訃報。十五年前、父は家族を捨て、その後、母(大竹しのぶ)も再婚して家を去った。父の葬儀で、三姉妹は腹違いの妹すずと出会う。三姉妹の父を奪ったすずの母は既に他界し、頼りない義母を支え気丈に振る舞う中学生のすずに、長女の幸は思わず声をかける。「鎌倉で一緒に暮らさない?」しっかり者の幸と自由奔放な次女の佳乃は何かとぶつかり合い、三女の千佳はマイペース、そんな三姉妹の生活に、すずが加わった。季節の食卓を囲み、それぞれの悩みや喜びを分かち合っていく。しかし、祖母の七回忌に音信不通だった母が現れたことで、一見穏やかだった四姉妹の日常に、秘められていた心のトゲが見え始める―。
発売日:12月16日(水)※レンタル同時
価格:Blu-ray:スペシャルエディション ¥7,000(本体)+税
Blu-ray:スタンダードエディション ¥4,800(本体)+税
DVD:スペシャルエディション ¥6,000(本体)+税
DVD:スタンダードエディション ¥3,800(本体)+税
監督:是枝裕和
キャスト: 綾瀬はるか、長澤まさみ、夏帆、広瀬すず、ほか
オフィシャルサイト:http://umimachi.gaga.ne.jp/
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