女の園には醜い争いがつきもの。華麗な芸者の世界とて例外ではありません。でもそこはミュージカル映画『シカゴ』でならしたロブ・マーシャル監督だけに、単なるどろどろした内紛劇では終わりません。たとえばリズミカルな音にのってテンポよく繰り広げられる着付けのシーン。一度でも体験したことのある人ならわかるはずですが、帯を締めたり結んだり、あの地味で根気のいる動作のひとつひとつがこんなにもエンタテインメントになるなんて! 普通にあるものやことが突然魅力的に見える…それこそが映画の魔力です。そしてチャン・ツィイーをも圧倒するコン・リーの鬼気迫る演技と色気はまさに圧巻でした。重箱の隅をつつくのではなく、画面に映っている美しいビジュアルと音楽を存分に楽しむのが正しい見方です。
公開前から期待と疑問と、賛否両論の『SAYURI』。日本人なのにセリフがすべて英語?ということばかりに気をとられがちですが、実際映画を観ると、作品の世界にすっかり引き込まれて、意外にも違和感はありませんでした。それだけマーシャル監督が作りあげた、彼の“イメージの中の日本"は美しく、まるでおとぎ話のように魅力的。観ていて恥ずかしくなるような日本文化の捉え方をしている外国映画が多い中、『SAYURI』は日本人として誇りに思える映画だと思いました。さらに、アジア女優の力を世界に知らせてくれた映画としても意義のある作品だと思います。日本人が日本人役を演じていなくても納得。それだけチャン・ツィイーやミシェル・ヨーの演技は素晴らしく、同じアジア人として嬉しくなりました。
美しかった! 誰がというより、映像が。かっこよかった! 主演のチャン・ツィイーがというより、ミシェル・ヨーが(豆葉姐さんはとにかく、粋)。 これって、世界が日本をどう見ているのか、日本の文化をどう羨ましがっているのかが集約された作品なのかな。そういう意味では、目の前に展開していくのは、実在した日本ではなく、架空の国とも言えるのかも。だから、ひとつのファンタジーとして観るのが、日本人としては最も心落ち着く見方なのではないでしょうか。そうは言っても、気になってしまったのは、奇妙な着物。大人だというのに、肩や振袖の部分におはしょりのようなものが。あれだけは見栄えも悪く、戴けません。「着物ではない、架空の衣類だ」と言われてしまえばそれまでだけど。
今、人々は、台湾映画を観るのでしょうか。韓流に対し、華流という言葉がありますが。華流とは、台湾=中華民国の、一文字が使われていることからもお分かりだとは思いますが、もともと台湾エンタテインメントを指す言葉。今では、中国語圏のエンタテインメントを指すようですが。
お洒落な読者が多いと評判のcinemacafe.net。いつもそれを肝に銘じて、作品選びをしています。でもたまに、「cinemacafe.netの読者は気に入るだろうか…」と疑問に思いつつも、「面白いからどうしても紹介したい!」という作品があったりします。とはいえ、限りあるスペースの中で映画を紹介するわけですから、後ろ髪を引かれながらも、cinemacafe.netらしい作品を優先させることもしばしば。
映画界には、出演作が何かと話題になる女優がいます。つまりは、“ニュースな女”。本業から離れたところで、常にゴシップを賑わわせる女優はさておいて、ここで取り上げたいのは、恐れずに既存のイメージを打ち破り、アグレッシブな挑戦を行う“ニュースな女優”。まっさきに、ニコール・キッドマンやシャーリーズ・セロンが思い浮かびますが、最近気になる存在がイ・ヨンエです。
先週末、11月12日に公開となった『ダーク・ウォーター』。ご存知、鈴木光司原作のジャパニーズ・ホラー・ムービー、『仄暗い水の底から』のリメイク。とはいえ、「リメイクか…」とがっかりするのは時期尚早。ちょっと前までは、リメイク=ネタがないから手抜き、という図式が見え隠れしていたけれど、今はリメイク=独創性の見せ所、となっているわけで。事実、リメイク作品に関わるスタッフ&キャストの顔ぶれが凄い。
買ったはいいけれど一度もおろしていない…そんな靴はありませんか? 私はたくさんあります。靴を履かないでどうするのかというと、もちろんときどき箱から取り出しては眺めて楽しむのです。トニ・コレット演じるお姉さんも映画の中でそれをやっていて、「ジミー・チューのヒールが!!」などというくだりは「セックス・アンド・ザ・シティ」のようでした。
姉妹ってなんて不思議な関係なんだろう。ローズとマギーの育った環境が徐々に見え隠れするあたりが、この映画のポイントじゃないかな。幼い頃に母親が亡くなり、父親は再婚して新しい家族がいる。姉妹2人の結びつきが強まるのは当然。ローズは母代わりのようなもので、いつだってしっかりしたお姉さん。一方、マギーはそれに甘えるだらしない妹。
おしゃれには欠かせないファッションアイテム、“靴”。映画『イン・ハー・シューズ』では、タイトルからもおわかりのように、靴が大きな役割を果たしています。しっくり来る人生の象徴として、“自分にぴったり合った靴”の存在が鍵となっている本作は、「自分らしく生きましょう」という、とても素敵なメッセージが込められた作品。主人公は、キャメロン・ディアスとトニ・コレット演じる、対照的な2人の姉妹。2人の心理状態やその変化は、靴だけでなく、洋服、そして体型にも、絶妙なカタチで反映されていくのです。
イタリアの宝石といえば、モニカ・ベルッチ。その美貌で、世界を魅了する美女ですが、美しいだけではないのは映画ファンならご存知のはず。フランシス・フォード・コッポラ、ジュゼッペ・トルナトーレ、ウォシャウスキー兄弟ら王道を行く映像作家の作品に出演したかと思えば、ヤン・クーネン、ギャスパー・ノエといった、鬼才たちとも喜んで仕事をする勇気ある女優です。
“グリム童話の隠された誕生秘話”を描いた本作。ただのフェアリーテイルに終わらないことは重々承知でしたが、正直、「こんな世界は見たくなかった…」というところもありました。リアルに登場するおとぎ話のキャラクターたちはかなり強烈。リンゴを持った怪しいお婆さん、少女たちに襲い掛かるジンジャーブレッド・マン、病に侵されていく美しい女王…。これはもうファンタジーというより、ホラーに近いものがあります。でも考えてみれば、小さい頃親しんでいた童話にはもともと、魔女や怪物など、ダークなキャラクターがたくさんいました。それらを素直に聞いていたことを考えると、その方が怖いかも。それにしても、衣装やセットのディテールには脱帽。モニカ・ベルッチの不気味なほどの美貌も必見ですよ。
ディズニーランドで「スモールワールド」に乗ると、ファンタジーの世界に身も心も飛んでいきます。もちろん、機械が動かしている人形だってことは十分承知しているし、長年動いている人形たちの汚れだって気になってしまうのだけど、なぜか心はファンタジーの世界。『ブラザーズ・グリム』のタイトルから勝手に想像したのは、ファンタジーの世界へ身も心もまっしぐらなトリップ映画…と思いきや、そこはテリー・ギリアム。彼が創り上げたグリムの世界には、おなじみの「赤ずきん」「シンデレラ」が登場し、ファンタジー要素満載。その一方で、動く木がいる森は怖いし、どこから襲ってくるか予想できない狼男も怖い。『ディープ・ブルー』を観て「地上で生きててよかった」と思い、『ソウ』を観て「生きていることを毎日感謝しよう」と思った私。今回は「1人で森に入らないようにしよう」とひそかに決心したのでした。