ある中学校のクラス35人全員に密着した『14歳の栞』で注目を集めた竹林亮監督が、齊藤工による企画・プロデュースのもと、新作ドキュメンタリーを創り上げた。ある児童養護施設に暮らす子どもたちの成長を見つめた『大きな家』だ。
現在、年齢制限は撤廃されたものの基本的には18歳を過ぎて準備ができたら自立しなければならない環境の中で、各々が人生と向き合うさまを描いた本作は、劇場上映のみを予定している。子どもたちや職員の配慮を施しながら、そこに生きている人々そのものを映し出した本作。竹林監督と齊藤さんに異端のドキュメンタリーに込めた思いを伺った。
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子どもたちが意見を言ってくれるような関係性に
――本作を拝見した際、構図であったりカメラの置き所が子どもたちに寄り添うようなものだったのが印象的でした。
竹林:いまおっしゃったカメラの目線や高さは、まさに全員が意識していた部分です。各パートそれぞれの主人公の目線になるように調整しました。距離感をもって撮りつつも、大事なカットは話している子たちと目線を揃えられるように。また、作品全体がパートごとに年齢が上がっていく構造にしているので、徐々にカメラの目線も上がっていきます。
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――ただ、目の前で被写体が生活を送っているわけですから、インタビューパート以外の決め打ちはなかなか難しいですよね。どのような工夫をされたのでしょう。
竹林:おっしゃる通り、撮りたいものって大体撮れないんです。だから計画しても基本的にその通りにはいきません。ただ、みんなでご飯を食べたりしながら「こういう子だよね、こういう癖や面白さがあるよね」という話をしていくうちに、僕たちが撮っている相手の見方が変わってくるんです。
僕らが気になっているポイントや被写体にとってのキーワードが何となく見えてきて、かつそれをスタッフ間で共有できている状態なので、撮影部や録音部が瞬間的に動けたのではないかと思います。あとは、数百時間ぶんくらい撮っているため、様々なアングルを試すことができたということも、大きいかと思います。
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――それだけの素材を約2時間に収めるのは相当大変だったかと思います。被写体の方々に意見を聞きながら編集作業を進めていったそうですね。
竹林:「本人が嫌なものは絶対に出さない」が最重要ルールでした。編集作業はトータルで半年くらいかけていて、ある程度見えてきた段階で本人や職員の方に観てもらい、気になるところをヒヤリングして再編集する形で進めていきました。
「自分のプリクラは映さないで」や「背中の筋肉がちゃんと映っているところにしてほしい」といった可愛いリクエストも反映しつつ――最後のエピソードの男の子は「自分は恥ずかしいけど、映画にとってはすごくいいよね」と受け止めてくれたのですが、本人が折り合いを付けられる場所という映画のあるべき姿に落ち着けた気がしています。
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齊藤:子どもたちの年代にもよりますが、長い間共存して下さったおかげで各々が撮影という装置を理解し出しました。そして後半になると本人たちが「こう切り取ってほしい」と意見を言ってくれるような関係性に昇華されていった点が、傍から観ていて面白かったです。
竹林:「子どもたちが学校から帰ってきたらいる人たち」のような状態でやらせていただきましたが、最初からカメラを意識していなかったということはやはりありませんでした。職員の方も「普段はこんな感じじゃないのに、カッコつけちゃっている」とおっしゃっていましたが、本人がいま人に見せたい姿を切り取るのは、決して嘘ではありません。それもまた、本人の一面ですから。