アベンジャーズの宿敵にしてMCU随一の愛されキャラ、宇宙一の裏切り王子・ロキを主人公にしたマーベル・スタジオのドラマシリーズ「ロキ」待望のシーズン2が配信開始。
トム・ヒドルストンやオーウェン・ウィルソン、ソフィア・ディ・マルティーノら続投キャストに、新参加の『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』(以下、『エブエブ』)のキー・ホイ・クァンの存在感とアンサンブルが早速炸裂する形で第1話「ウロボロス」が幕を開けた。
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今シリーズのロキは、『アベンジャーズ』の後に四次元キューブで逃げ出したロキ=“変異体”で、TVA(時間変異取締局)という未知の場所が舞台となる。
TVAでは、タイムキーパーと呼ばれる者たちが時間軸を統一した“神聖時間軸”を作り、本来の運命とは違う、そこから枝分かれた者を“変異体”と呼んで“剪定”してきた。神聖時間軸のロキは残念ながら『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』の冒頭で死を迎えており、今シリーズはロキのもうひとつの物語としてその活躍を楽しむことができるため、シーズン2が製作されるほど愛される作品となっている。
前シーズンのラストは、TVAの秘密が暴かれた。ロキの別の変異体・シルヴィ(ソフィア・ディ・マルティーノ)によって、タイムキーパーは実はロボットにすぎず、神聖時間軸を守るために働いてきたメビウス(オーウェン・ウィルソン)やハンターB-15(ウンミ・モサク)らTVAの職員たちはみな、元の人生と自由意思を奪われ記憶を消されてきた変異体たちだった…という事実が明かされた。神聖時間軸を守るための“剪定”は、いわば虐殺行為だったのだ。
ロキとシルヴィは、その筋書きを作った“在り続ける者”の後を継ぎ、神聖時間軸を司るTVAの支配者となるか、彼を倒し無数の彼の変異体=悪魔を出現させるか、究極の選択を迫られるが、シルヴィは在り続ける者に刃を向けた。在り続ける者が殺されたことで神聖時間軸はもはや意味をなさず、時間の分岐は広がり続け、TVAは大混乱に陥っているーー。
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おなじみMARVELのタイトルクレジットには、これまでのMCU作品の名場面が散りばめられているが、“在り続ける者”をはじめ、ムーンナイトやミズ・マーベル、新ブラックパンサー、新キャプテン・アメリカ、そしてアントマンらの姿もある。フェーズ5まで紡がれてきたMCUの新しい主人公たちだ。
こうしたキャラクターたちとどう関わっていくのか、そもそも関わるのか否かも不明だが、今シーズン第1話のロキはTVAで謎のタイムスリップ(時間移動)現象に見舞われている。
逃げ回るうちに、音楽を聴きながら呑気に床を磨いていたケイシー(ユージン・コルデロ)の近くに貨物カートで激突。そのずっこけぶりやヨロヨロと立ち上がりながら、誰にも聞かれてないのに「大丈夫」「おはよう」と強がるロキを見て、タイムミステリーと謳われた本シリーズに貫かれている、トムヒが体現するシリアスだからこそ際立つユーモアに“ロキが帰ってきた!”と実感する。
タイムスリップを繰り返すロキは、メビウスが言うように「助けが必要」な感じだ。「誕生と死を一度に見ている」ようで気味が悪いと正直に話してくれるメビウス。まずは、やたらとタイムスリップしない“在り続けるロキ”に戻るため、2人は設備管理部のウロボロスの元へ向かう。
キー・ホイ・クァン演じるO.B.ことウロボロスって何者!?
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おそらくシリーズ2のキーパーソンとなるウロボロス、通称O.B.を演じるのが『エブエブ』でアカデミー賞を受賞したキー・ホイ・クァン。どこか抜けているように見えても筋が通っているギークで、仕事熱心なO.B.はハマり役だが、『エブエブ』での評判があったとはいえ、アジア系のステレオタイプ的な役柄にはめられているようにも見える。『エブエブ』での“妻”ミシェル・ヨーや、トニー・レオンらアジアを代表するレジェンド俳優に続くキー・ホイ・クァンのMCU参加は喜ばしいことではあるのだが。
今シリーズの製作総指揮ケヴィン・R・ライトが「Variety」に語ったところによれば、撮影開始2か月前、『エブエブ』が全米拡大公開される直前にキャスティング・ディレクターから「急いでキーに会ったほうがいい。彼こそがO.B.。おそらく月曜日までに大量のオファーが彼のもとに集まるはずだから」と電話があったのだとか。その後の『エブエブ』の大躍進と彼の再ブレイクは周知の通り。早めに声がけしていて大正解ではあった。
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日本語吹き替えはベテラン声優の水島裕だ。映画ファンにはサモ・ハン・キンポー、TV放映時のルーク役マーク・ハミルなどの吹き替えで知られるが、『エブエブ』でもキー演じるウェイモンドの日本語吹き替えを担当している。全宇宙にカオスをもたらす強大な悪に家族で立ち向かう、という点では確かに『エブエブ』と「ロキ」とはそれほどかけ離れてはいないかも。とにかく、キーの存在が利いている。
O.B.によれば、TVAでタイムスリップは起こるはずがないというが、そんな会話の途中でもロキは過去へタイムスリップしてしまう。“在り続けるロキ”に戻るためには、留まりたい時間先の人が時間オーラ抽出器を使うと説明しながら、過去のロキから時間オーラ抽出器を作成して「メビウスってやつが来たら渡して」と言われていたことを思い出すO.B.。そして、一歩間違えば、ロキはスパゲティ化され分子が散り散り、抽出する役目のメビウスも皮膚が剥がれるかもしれない…とO.B.はさらりと言う。
こうしたやりとりは、タイムミステリーものの醍醐味が詰まった会話だった。しかも、それぞれコメディ経験豊かな俳優たちが演じるのだからテンポ感がたまらない。
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また、広がり続ける分岐に“時間織り機”が対応できずオーバーロードしている、とO.B.は気づく。TVAのガイドブックを記した人物だけあり、まるで生き字引。O.B.はいったい何者? どこから剪定されてきたのだろうかと考えてしまう。
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ウロボロスとは自身の尾を飲み込み、輪のようになった蛇や竜のこと。無限であり、輪廻を意味する。広がり続ける分岐を剪定しなければ、TVAはいずれ破滅する。だが、枝分かれした変異体を剪定と称して虐殺を続けるなんて正しい道ではない。しかし、ロキが“在り続ける者”から聞いたように、このままでは悪意や暴力や戦争が解放され、時空を超えて“在り続ける者”=征服者カーンの変異体たちがやってきてしまう。
変異体を脅威とみなして剪定することの是非は今シーズンのテーマとなりそうだが、カーンたちの襲来を防ぐためには剪定し続けるしかないのかも…と話すロキ。これではまさに堂々巡りである。
ロキがそう話しながらメビウスに指し示したTVAの壁画は、大量のスパイダーマンやヒーローたちが戦っているようにも見え、アベンジャーズの次なる戦いを予感させ、『スパイダーマン:アクロス・ザ・ユニバース』での出来事も想起させた。
シルヴィはなぜ、1982年のオクラホマに!?
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さらにポストクレジットでは、“在り続ける者”を倒した後のシルヴィが、なぜか1982年のオクラホマ州ブロクストンに現れ、マクドナルドに入っていた。海外ファンからの指摘によれば、この地はマーベル・コミックスでソーがアスガルドを再建した場所という。MCU映画、つまり神聖時間軸では『マイティ・ソー バトルロイヤル』の後、ソーやヴァルキリーはスウェーデンにニューアスガルドを築いていた。
製作総指揮のライトは先述の「Variety」に、「ロキとソーに再びスポットを当てることは、常に私たちが作る物語の優先事項でした」とも語っている。「しかし、その再会を本当に充実したものにするためには、ロキを感情的にある場所に連れていかなければなりません。それがこの2シーズンのゴールだと考えています」というのだ。
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つまり、別の時間軸のニューアスガルドでロキ、もしくはシルヴィが兄ソーと再会する可能性があるということか。ロキの変異体にとって、神聖時間軸では叶わなかった“故郷”を得ることができるかもしれない。それならば、ロキのもうひとつの終着点として確かに申し分ない。
マーベル・スタジオのドラマシリーズは、新たな試みとなった「ムーンナイト」や「シー・ハルク」、そして劇場公開映画『マーベルズ』につながる「ミズ・マーベル」はMCUの拡張性と多様性を感じさせたが、キャストが豪華だった「シークレット・インベージョン」辺りになると、あまりにも拡がりすぎ、残念な退場(キャラクターの死)もあって正直言って乗れなかった部分がある。もし「ロキ」に、こうしたハッピーエンドが待ち受けているとしたら大変楽しみだ。
ただし、これまでケヴィン・ファイギが配信日決定の際にも触れず、「Variety」でのライトも「不可欠な役割を果たしている」と語った“在り続ける者”こと征服者カーン、今シーズンではヴィクター・タイムリーを演じるジョナサン・メジャースについては残念である。再撮できない上に、まだ結審していないことを逆手にとっている気さえする。
DVで訴えられたが、無罪を主張し審理が続いているメジャースが、これから展開するシーズン2には想像した以上にがっつりと出演していることにはあらかじめ触れておきたい。
「ロキ」シーズン2は毎週金曜10時よりディズニープラスにて配信中(米国サマータイム終了に伴い11月10日は11時から配信)。
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