稲森いずみを主演に迎え、毎回反響を呼んできた金曜ドラマDEEP「夫婦が壊れるとき」がまもなく最終回を迎える。
見逃し配信では、6月16日(金)の第11話放送終了後に「TVer」での全話累計再生回数が2,500万回を突破(※6月17日現在、第1話~11話、スピンオフ第1~3話の全話合算)。また、公式TikTokでもドラマの切り出し配信が総再生回数4,500万回を超えており、多くの視聴者が不倫された妻の壮絶な復讐劇を見守ってきた。最終回の行方が気になるなか、本作のメインライターを務めた脚本家・鹿目けい子さんにお話を伺った。
世界的大ヒットドラマのリメイク
「一番話し合ったのは主人公・陽子のキャラクター」
まず、ドラマの反響について伺うと、「反響の大きさは率直に嬉しいです、が、正直『嬉しさ < 安堵』という気持ちが強いです。金曜深夜の新枠、第一弾の作品なので、皆さん結果を残したいという思いが強かったです」と鹿目さん。金曜ドラマDEEPは大人がハマれる沼ドラマを目指した新枠だが、今作は十分な結果を残したといっていいだろう。
原作となったのは、英BBCの「女医フォスター 夫の情事、私の決断」。韓国ほか各国でリメイクされた世界的ヒットドラマだ。「海外ドラマが好きなこともあり、『女医フォスター』は随分前に観ていて、その後、韓国版も観ました。BBC版も韓国版も、とにかく一気に見たことを覚えています。どの登場人物にもあまり共感は出来ないのに目が離せない(笑)。復讐する妻の狂気と、クズな夫、スピーディな展開に圧倒されました」。
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そして今回のドラマ化も、「タイトルを聞かずに、枠のコンセプトと海外ドラマリメイクで不倫ものという情報を聞いただけで『もしかして女医フォスターですか?』と、こちらから訊ねたくらいだったので(笑)」とすぐにピンときたよう。「同時にオリジナル版、韓国版の大ヒットはもちろん知っていたので、プレッシャーが大きかったんです」とも打ち明けた。
日本オリジナル版の脚本を創りあげるにあたり「一番話し合ったのは主人公・陽子のキャラクター」だったという。
「イギリス版の主人公は野性的で直情型、韓国版で描かれる主人公は、抑制の効いた理性的なキャラクターです。それは文化の違い、国による夫婦の在り方にも関係していると思います」と話しつつ、「日本版ではやはり日本の視聴者に共感をしてもらえる主人公を作ろうと、話し合いを重ねました。夫以外の男性と関係を持つことや、父の浮気を知ってしまった息子と対峙するシーンは、陽子にも観た人にも納得できるよう、そこに至る経緯を丁寧に積み上げました」と鹿目さん。プロデューサーや監督、脚本家(三國月々子さん・上野詩織さん)ら女性スタッフから参考になる意見をもらえた、と続ける。
「複数の脚本家で作業する場合は、始めにメインライターが全体構成を考えます。今回なら13話の展開を先に考え、どこで話を区切るか、各話のクリフハンガーとなる出来事や、その回での主人公の心情の変化を明確にして情報を共有し、他のライターさんと同時に作業をしていきます。担当回以外の打ち合わせにも極力参加して、流れを掴めるようにしていました。コロナ禍以降リモートでの打ち合わせ参加が出来る環境が整ったこともあり、その辺りはフレキシブルに対応出来て良かったと思います」。
稲森いずみが体現した感情移入できる主人公
「本当にそこに陽子がいて」
鹿目さんはこれまでにも、映画版から30年後を舞台に女子相撲を主軸にしたDisney+オリジナルドラマ「シコふんじゃった!」や、中国の大ヒットドラマを原作としたAmazonOriginalドラマ「ホットママ」など、既存の人気映像作品にオリジナル要素を加えて再構築する作品に携わってきた。
「シコふんじゃった!」では「設定は映画の世界を踏襲していますがストーリーはオリジナルでした。ただ、映画で愛されたキャラクターも多く出てくるので、キャラクターの描き方には細心の注意を払いました」と言い、「ホットママ」も「“働くママ”という中国版の設定は生かし、話は日本オリジナル要素が強いです。予期せぬ妊娠をした女性に共感をしてもらい、愛されるキャラクターにすることを心がけました」とふり返り、「どの作品でもとにかくキャラクター造形には気を遣います」という。
今作では主人公・陽子のキャラクターが「日本の女性に感情移入してもらえるか」が最重要となった。「例えば、話のロジック的には、陽子が夫以外の男性と関係を持つことは必要な出来事ですが、そこまでの感情の積み上げ方次第では、観る側が『あり得ない』となる危険性もあります。そうならないために感情を丁寧に積み上げました」と、説得力を持った心情描写で共感を得られるよう構築してきたことを明かす。
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「また、稲森さんを初めて現場でお会いした時には、本当にそこに陽子がいて、ぞくっとしました。改めて素晴らしい俳優さんだと思いました」と、感情移入できる陽子を見事に演じ切った稲森さんに称賛を贈る。
“完璧”な陽子が「そもそもどうして
あんな人と結婚したのか」
今作では吉沢悠が演じている不倫夫だが、そのクズっぷりは相変わらず。むしろ昂太は若々しい雰囲気で人懐こさがあるため、不誠実な言動とのギャップが際立ち、稲森さん演じる陽子には「とにかく幸せになってほしい」「報われるラストでありますように」といった応援の声がSNSに上がるほど。
「昂太は、本当にダメな夫ですよね。そうなると、どうして陽子のような完璧な女性が、昂太と結婚したのか、視聴者が気になるのではないかと思いました。言葉で多くを語らずとも愛される男と考えると、吉沢さんのようなそこにいるだけで癒してくれる男性でなければいけなかったと思います」と鹿目さん。確かに、周囲から同情されることを嫌い、医師となり、母となり、副院長となってからも、何事も全力で打ち込んできた陽子にとって昂太は癒しとなる存在だったはず。
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その点では、日本オリジナルである「スピンオフストーリーでキャラクターの強化が出来たことも良かった」という。スピンオフは「主人公に共感してもらうことを目的としているところが大きい」と言い、「本編の23分では収まり切れなかった過去のエピソードを知ってもらうことで、いかに主人公にとって夫の存在が大切だったかということを描くためのストーリーにしました。また3本のうち2本は夫側のエピソードですが、本編では描かれない不倫に至る経緯が見えたほうが、より複雑な感情を持てるのではという狙いがあります」。
「本編だけを見るとクズ男で、視聴者の中には、そもそもどうしてあんな人と結婚したの? と思うのではないかな、と。なので夫のキャラクターがこれまでのどんな出来事に裏打ちされたものなのかを描きました。ただ、あれを見て、さらに許せない! となるか、情状酌量、となるかはお任せです(笑)」。
果たして、陽子はクズ夫と決別し息子・凪(宮本琉成)と自分の人生を守りながら幸せになることはできるのか。もしかしたら、原作とは違った結末が待ち受けている可能性も…?
「同じラストであってもより共感してもらえるように、そこまでのエピソードを重ねていきました。違うラストであったら、それは、より最善のものを選んだということで…楽しみにして頂ければ、と思います」と、意外な結末も匂わせつつ自信を覗かせる鹿目さん。
「原作にはシーズン2があり、夫の逆襲も描かれるのですが、それも日本でもやれたらいいな、という思いもあります」と、“続編”の可能性についても語っていた。
第12話あらすじ
夫を自分の人生から排除しようとする陽子(稲森いずみ)は、離婚の条件が書かれた書類と離婚届を昂太(吉沢悠)の元に送りつける。家も財産も息子・凪(宮本琉成)も全て陽子のもの…その要求に、昂太は納得できずにイラ立ちを募らせる。一方、芽衣(結城モエ)は睡眠薬を服用していることを康生(犬飼貴丈)に気づかれてしまう。「お前、あの医者に使われてるんだな」…陽子への仕返しを考えていた康生は、ほくそ笑んで理央(優希美青)と昂太の元に押しかけ、陽子と芽衣の関係を暴露する。
また、離婚の条件をひっくり返そうと昂太が陽子のクリニックに乗り込んでくる。離婚書類へのサインを求める陽子に対し、「家も出て行かないし凪も渡さない」と反論する昂太は…。
「夫婦が壊れるとき」は第12話は6月23日(金)深夜25時05分~日本テレビにて放送。
放送後よりTVer、Huluにて配信。
「女医フォスター 夫の情事、私の決断」と「夫婦の世界」(韓国リメイク版)はHuluにて配信中。