初めて“岸辺露伴”に触れた者は、その奇妙さと比類ない面白さの融合にいささか戸惑うことだろう。
高橋一生が主演を務め、飯豊まりえが共演する「岸辺露伴は動かない」が最初に放映されたのは、2020年のことだった。「ヘブンズ・ドアー」の言葉で人の顔が本になり、その人物の経歴や考えが読める特殊能力を持つ、人気漫画家の岸辺露伴。実写映像にするには、あまりにもトリッキーな露伴先生を、飄々とやってのけたように見える高橋さんの稀有な存在、そしてそんな露伴を「先生~!」と明るくタックルする担当編集・泉くんを演じた飯豊さんの潔さ。
「一体これは何を見ているのだ…」という不思議な気持ちが、容赦ない面白さとディテールまで完璧な演出と美術にいつしか夢中になり、「もっと見たい」の興奮へと相成る。中毒になる独特の世界観は、荒木飛呂彦の原作の映像化の最高峰と言っていいだろう。

映画『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』は、高橋さん、飯豊さんというキャストのほか、渡辺一貴監督、脚本を担当した小林靖子らドラマの製作陣が再集結。ルーヴル美術館でこの世で「最も黒い絵」を見るべくパリに向かう露伴と泉が描かれるかたわら、その絵にまつわる露伴の青年期パートも展開され、新たなストーリーで魅了する。
露伴と泉という稀代のバディを演じた高橋さん、飯豊さんのふたりに、撮影にまつわるエピソードなどをインタビューした。
チームでの撮影は「幸福な現場」
――1~3期までのドラマを作り上げたメンバーで『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』の製作となりました。このチームワークでの撮影は、いかがでしたか?
高橋:実は、1期のときからあくまで夢の話として映画の話をしていたんです。(渡辺)一貴さんから「一生さん、その動きは『ルーヴル』のときに残しておいてもらえませんか?」などと言われたり。だからか、『ルーヴル』のお話をいただいたときは、とても自然に受け入れることができました。
実際、現場でフランスのスタッフの方々を見ていても、特段、日本のスタッフと変わりないんです。「全世界共通なんだな」とわかって面白かったです。ですから、映画を撮るんだ!という気負いのようなものは、ほとんどなかったかもしれません。

――フランスで撮ったから特別どうこうではなく、これまでやってきたことを地続きでできたということですね。何とも『岸辺露伴』らしいお話です。
高橋:『岸辺露伴』のチームは、海外に来たからといって何かが変わることなく、いつも通りの感覚で撮影をしてくださいました。シーンの頭から最後まで一連で通して撮り、余韻を残しながら撮影が進んでいく。その流れは非常に一貴さんらしい、まったく地崩れしていない作品への思いのようなものをスタッフワークとともに感じました。とても楽しい、幸福な現場だったと思っています。
――飯豊さんはこれまでも『岸辺露伴』の現場は最高だとおっしゃっていたそうですが、本作の撮影も同じでしたか? 新たな感慨も生まれたんでしょうか?
飯豊:今、一生さんがおっしゃられていたみたいに、一貴さんは一連で撮ってくださるので、これまでと変わらずいい緊張感の中、泉くんを演じさせていただくことができました。それに加えて、初号を観させていただいた時に、人のいないルーヴル美術館の静けさを、そのまま体感できるような、堪能できる感覚がありました。すごく見どころだと思いますし、余白が楽しめる作品になっていて、改めて今作に参加させていただけた喜びをかみしめています。

菊地(成孔)さんの音楽も本当に素晴らしくて。いろいろな楽器で演奏されているのですが、クラシックや日本的な音楽、様々なものが織り交ぜられているところや映像美と音楽の融合が本当に格好よかったです。本当に早く皆さんに観ていただきたいです。