開催時期の延期、ノミネート条件の変更による配信公開作の躍進、授賞式会場の分散、セレモニー当日に実施された出席者へのPCR検査…。コロナ禍の影響を受け、今年のアカデミー賞授賞式がいかに異例であったかは、今更多くの説明は不要かもしれない。さらに“ほぼ真っ白”だった昨年の反省を受け、すべての俳優賞部門に非白人の俳優が名前を連ねる多様なノミネーションも含めて、第93回のアカデミー賞は“ニューノーマル”に向き合う、歴史的祭典だったといえる。
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そんな今年の授賞式で、『ノマドランド』が頂点を極めたのは、自然な流れだった。リーマンショックの影響で、長年住み慣れた家を失った60代の女性が“現代のノマド(遊牧民)”として、過酷な季節労働の現場を渡り歩く。その姿がコロナ禍で希望を見失い、葛藤と向き合う現代人の心にそっと寄り添ったのは言うまでもない。誇りを胸に、自由に、そして未来を見据えて生きる主人公には、期せずして「再始動」を表明することになった映画界全体の祈りと願いが込められている。

一方、最もハリウッド的といえる最多ノミネート作『Mank/マンク』が、最も浮いた存在となった逆転現象は、同作がNetflix作品であるという皮肉も含めて、今の時代を映し出す象徴的な出来事だった。結果的には美術賞、撮影賞に輝き、作品のクオリティの高さを証明している。

『シカゴ7裁判』『ジューダス・アンド・ザ・ブラック・メサイア』など、歴史の闇を照らすことで、現代社会の問題を改めて浮き彫りにする秀作の存在は、頼もしいばかりだし、脚本賞1冠に留まったが『プロミシング・ヤング・ウーマン』の多層的な語り口と絶妙なバランス感覚には、映画の新たな可能性が秘められている。重厚なテーマに対し「この手があったか!」とうなる斬新な構造で切り込んだ『ファーザー』にも大いに拍手を送りたい。
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そしてその『ファーザー』が脚色賞に加えて、なんと主演男優賞にも輝いた。受賞したアンソニー・ホプキンスは『羊たちの沈黙』(第64回)以来の同賞受賞であり、史上最高齢での受賞を果たした。ホプキンスの名演に対する敬意を惜しむつもりはないが、あえて“衝撃的結末”だったと断言したい。おそらく世界中の映画ファンが、同じように感じているのではないだろうか。誰もが昨年8月に43歳の若さで亡くなったチャドウィック・ボーズマンが遺作『マ・レイニーのブラックボトム』で主演男優賞に輝くと予想していたのだから。
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そもそも作品賞の発表を前倒しに、セレモニーの最後に主演男優賞が発表されたのだから、多くの視聴者は「チャドウィック・ボーズマンへの追悼で、授賞式を締めくくるのだろう」という“ドラマ”を予想していたはず。同時に、予想を覆すどんでん返しこそ、アカデミー賞授賞式の醍醐味であると再確認させられたのも事実だ。史上2人目となる女性監督の栄冠、韓国人俳優初の受賞といった歴史的な瞬間の数々も含め、後世に語り継がれるべき、セレモニーであったことは間違いない。ホント、ビックリした!
【第93回アカデミー賞 主な受賞結果】
作品賞:『ノマドランド』
監督賞:クロエ・ジャオ『ノマドランド』
主演男優賞:アンソニー・ホプキンス『ファーザー』
主演女優賞:フランシス・マクドーマンド『ノマドランド』
助演男優賞:ダニエル・カルーヤ『ジューダス・アンド・ザ・ブラック・メサイア』
助演女優賞:ユン・ヨジョン『ミナリ』
国際長編映画賞:『アナザーラウンド』(デンマーク)
脚本賞:『プロミシング・ヤング・ウーマン』
脚色賞:『ファーザー』
音響賞:『サウンド・オブ・メタル 聞こえるということ』
編集賞:『サウンド・オブ・メタル 聞こえるということ』
撮影賞:『Mank/マンク』
美術賞:『Mank/マンク』
衣装デザイン賞:『マ・レイニーのブラックボトム』
メイク・ヘアスタイリング賞:『マ・レイニーのブラックボトム』
作曲賞:『ソウルフル・ワールド』
歌曲賞:『ジューダス・アンド・ザ・ブラック・メサイア』“Fight For You”
視覚効果賞:『TENET テネット』
長編アニメ映画賞:『ソウルフル・ワールド』
長編ドキュメンタリー映画賞:『オクトパスの神秘:海の賢者は語る』
短編実写映画賞:『隔たる世界の2人』
短編アニメ映画賞:『愛してると言っておくね』
短編ドキュメンタリー賞:『コレット(原題)』